かつて会社の床の上で眠ったことがある人へ……『午前3時の無法地帯』

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『午前3時の無法地帯』(ねむようこ/祥伝社)

イラストレーターを夢見るももこが就職したのは、パチンコ専門のデザインを手掛ける超多忙な小さなデザイン事務所。給湯室でシャンプーしている上司や夜中になると脱ぎだすデザイナーなど、社員はハチャメチャで個性的。連日徹夜続きで家にもなかなか帰れず、終電を逃すたびに部屋に泊まらせてもらっていた彼氏は、なんと後輩と浮気をしている様子。だが女子力が低下しているからか、もはや怒る気力すら湧いてこない。そんなときももこはふと思う。「あたし、なんでここに居るんだろ?」と。「だったらいつでも辞められるように準備しておこう」と退職届を書くも、いつしか仕事にやりがいを感じるようにもなってきて……。

著:ねむようこ
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「時代錯誤!」とツッコミながら読み返すつもりが、訳も分からず号泣する羽目に……。

「労基法の厳しくなった令和の時代、タイトルからしてOUTな感じのこのお仕事漫画は、いまの自分の目にどう映るんだろう?」という単純な好奇心から読み返してみたのだが、「いやぁさすがにこれはないっしょ!」とツッコミながら読むつもりが、心の奥に封印したはずのありとあらゆる感情が蘇ってきて、ページを捲りながら泣けて泣けて仕方なかった。

なぜかよく分からないがいまの自分に響いたのは、「辞めたい辞めたい」と言っている会社でも、たまには自分から「やりたい!」と思えるような、楽しい仕事も回ってくるということ。「辞めたい辞めたい」と言っている会社でも、たまには従業員同士でわちゃわちゃ盛り上がったりする楽しい時間もあるということ。極めつけは、同じフロアで働いている別の会社のちょっと気になるお兄さんに、「辞める前にさ、角のソバ屋には行っておいたほうがいいよ。あそこの親子丼は絶品だから」と言われていざ食べに行ってみたら、本当に頬が落ちるほど美味しかったりすることもあるのだ、ということ。

「辞めますよこんな会社!」と啖呵を切ってからが実は大変で……。

「この仕事が終わったら絶対辞めてやる~!」と決意したにもかかわらず、そんな些細なことで退職を思いとどまったことがある人は、きっと星の数ほどいるに違いない。なかでも身につまされるのが、ついに「辞めますよこんな会社!」と先輩に啖呵を切ったところを上司に見つかり退職届を預かられてしまったももこが、居場所がなくなり自信喪失する場面と、自分のミスで営業担当者が取引先に怒られる事態を引き起こして自責の念に駆られながらも、「自分は自分がやれることで責務を果たす以外ないんだ!」と自力で立ち直る場面。

社会人経験が浅い時期特有の「あるある」エピソードが満載で、読み進めるうちに過去の自らのとんでもない失敗や周囲のありがたさが一気に脳裏に蘇り、「うわぁぁ!」と手のひらで顔を覆いたくなるような、そんな衝動に見舞われた。

「石の上にも3年」と言うけれど、仕事に向いているのは「やりたいことより得意なこと」

「石の上にも3年」という言葉に囚われ3年単位で転職を4度ほど繰り返し、会社員生活に見切りをつけてフリーランスライターになった身からすると、「3年縛り」は正直長すぎるような気がしなくもない。というよりむしろ、たかだか3年やったくらいでは何も身に着かないのも同然で、1年も2年も変わらない気がするからだ。結局、15年くらい経って

から振り返ったとき、初めて「あぁ、あのときのあれって、こういうことだったんだ」と急に腑に落ちる瞬間が訪れる。その時、果たして自分が誰とどこで何をしているかはわからないが、生きてさえいれば必ず、なるようになっている。

「やりたいことより得意なことを仕事にした方がいいよ」とは、最近筆者が取材を通じてよく聞く言葉だが、「確かにそうだよなぁ。なぜ昔はそんな単純なことに気付かなかったんだろう」と妙に納得している。好きなことでお金を稼ぐのが何より幸せだと思っていたが、人生は残念ながらそんなに甘くはない。一日一回笑えて、ときどき頑張ったご褒美に美味しいものが食べられる。それで十分なんじゃないかと思えるようになったのは、自分がつまらない大人になったからだろうか。

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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