「ここでキュンとできる人間になりたかった」……恋愛とはかくも難しい
「これは良い雰囲気だ……手を握ってもおかしくないとわかる……」。お酒も交えた食後。綺麗な夜景に囲まれ、気持ちの良い酔いで身体が火照るなか、ふいに指先が触れる……。傍目には見るからに“イイ感じ”の早見りこと塚瀬清春だが、内なる思いは同じ。「わかるけど。ここでキュンとできる人間になりたかった」。みんなどうやって人を愛しているのか。相手が恋愛対象というだけで、どうして“イイ感じ”になれるのか。「恋愛わからず、ラブならず」なふたりは、そんな雰囲気でも凛々しい顔のまま、もう一軒と喫茶店へ向かうのだった。
「どうすれば相手に恋愛感情を抱けるのかわからない」共感誘う恋愛の“分からなさ”
「恋愛」といえば、取り立ててイロハを教わるようなものではないにも関わらず、年齢を重ねるにつれいつの間にか“みんな相応に経験があり、相応に知識があるもの”という暗黙の了解が進みがちな物事のひとつではなかろうか。「恋愛というものに漠然と憧れはあるが、どうすれば相手に恋愛感情を抱けるのかわからない」とは、気付けば後手に回っていた、という人々の多くから共感を得られる切実な想いだろう。『ラブらず 恋が分からない男女の話』は、そんな読者の「わかる」を拾っていく、“恋愛未満”を描くラブコメディだ。
メインキャラのりこと清春は、社内合コンから(周囲のお膳立てもあって)デートに発展するも、「恋愛がわからない」ことで意気投合。そのまま無事友人に……という間柄だ。彼らの「恋愛がわからない」ぶりは第1話における、サッカーを例えに出しての「見るのとするのじゃ違う」という清春の発言がわかりやすく、「わからない」寄りで読む身としても共感してしまう。ふたりは最終的に、ざっくばらんに話しすぎて“イイ感じ”とかけ離れた方向に盛り上がってしまい、恋愛に発展する機会を逃すが、これも苦笑いを誘う「あるある」だろう。
りこには「鉄道の撮影」、清春には「アイドル」という、社内の同僚に打ち明けるには少しディープ寄りな趣味がある。「ざっくばらんに話し」た際にお互いにカミングアウトしたことで、友人としての交流が深まっていくことになるのだが、第1巻では両者の“現場”に同行するエピソードも大きな見どころのひとつだ。お互いの趣味をフックに、ふたりの恋愛観に関するトークはどちらかと言えば理詰めっぽく進むが、“イイ感じ”の種が蒔かれるのは得てしてその緊張が解かれたとき。読者としては、「あ、もしかして“こういう”もの?」と気付かされつつ、その微笑ましい関係が深まっていくようすを、自然に応援してしまう。
“イイ感じ”……の先はあるのか?“恋愛未満”に立ちはだかる悩みの数々
随所に“イイ感じ”の気配は見られつつも、結局そのまま“恋愛未満”の友人として交流するりこと清春だが、第1巻の幕引きにはその関係性に一石を投じるような出来事が待ち受けている。ここで清春が考え込んでしまうことは、「『恋愛がわからない』ことが『わかる』」読者ならどこかでぶつかるであろうテーマのはず。なんとなく意識し合っているのはお互いに気付きつつ、ずっと敬語で、基本的にローテンションなこの感じ。「わかる」人には「わかる」の嵐のはず。続きが気になる、イマっぽい恋愛観のラブ(未満)コメデイだ。