『ザ・ウルトラマン』……現在のウルトラマンシリーズに多大な影響を与えた傑作児童漫画!

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『ザ・ウルトラマン 単行本初収録&傑作選』(内山まもる/小学館)

2022年5月。映画館で『シン・ウルトラマン』を見終えた僕は、心地よい疲れに身を預けながら、しょうもないことを考えていた。「内山まもる先生がこの映画を見て漫画化していたら、きっともっとウルトラマンの心情描写をしていたんだろうなあ」と。

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ウルトラの星滅亡の危機を描くオリジナルスペースオペラ巨編

手元の資料によると、現在は『ザ・ウルトラマン』というタイトルで単行本化されている『さよならウルトラ兄弟』を、内山まもるが「小学三年生」(小学館)に掲載したのは、『ウルトラマンレオ』(TBS系列)の放送が終了した1975年4月だったそうだ。

実は、1975年という年は、一部特撮オタクにとっては絶対に覚えておくべき年なのだ。70年代初頭のウルトラシリーズ再放送から始まり、仮面ライダーなど新たなヒーローたちが誕生することとなる“第二次怪獣ブーム(変身ブーム)”が、この年に終わった。子どもたちの興味は、特撮番組からテレビアニメ、特にマジンガーZやコン・バトラーVなどの“ロボットもの”へと移り変わっていく。

それまで、各種児童誌にてウルトラマンシリーズのコミカライズを手掛けていた漫画家の内山まもるは、ブームの終焉を受け、総決算の形で完全オリジナルのウルトラマン伝説を描くこととなった。

おそらく当時の関係者は考えてもいなかっただろう。この時執筆されたウルトラマン漫画が、ウルトラシリーズというIP(知的財産)を2023年までつなぐきっかけになろうなどということは!

『ザ・ウルトラマン』のあらすじはこんな感じだ。

ウルトラ兄弟たちが宇宙をパトロールしていると、テレビシリーズで自分たちを倒したことのある、印象的な強敵怪獣が次々現れ襲ってくる。基本的に相性がよくない怪獣であるのに加え、それらの怪獣は以前とは比べ物にならないくらいパワーアップ。ウルトラ兄弟たちは次々と命を落としていく!

実はそれらの怪獣は、かつてあまりの邪悪さ故にブラックホールへ封印されていた宇宙人・ジャッカル大魔王が変身した姿だった。ウルトラ兄弟をほぼ全滅!させることに成功したジャッカル大魔王は、100万人の兵を従えウルトラマンたちの故郷であるウルトラの星を襲撃。なんと、ウルトラの国を滅ぼしてしまう……。未来を託され生き残ったウルトラ兄弟長兄のゾフィーは、ジャッカル大魔王を倒し、宇宙に真の平和を取り戻すことができるのだろうか? そして、ゾフィーのピンチを救った謎の鎧の戦士の正体は!?

いかがだろうか。

30分一話完結が基本のウルトラマン本編テレビシリーズとはうって変わって、壮大なスケールの連続ドラマであることが、あらすじからでも伝わってくるのではないだろうか。恐るべきことに内山まもる先生は、この展開を、小学校低学年向けの学習雑誌で連載していたのである。まさに、内山ウルトラマンの総決算。これが最後!という力の入れようだ。

もっとも、人気が出過ぎて終われなくなったのだが……。

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内山ウルトラの大発明は喋るウルトラマンの口許だ!

内山まもるは、元々タツノコプロのアニメーター出身という経歴をもつ漫画家だ。アニメーター時代に副業として漫画を始め、20歳のころウルトラマンのコミカライズの話が来たことをきっかけに独立。以後、漫画家に専念することになった。元アニメーターということもあり、特に筋肉が連動する動きの描写は素晴らしく、ウルトラマンのコミカライズにおいては、捨てコマが1コマも見当たらないといっても過言ではない位、ウルトラマンのポーズがバチバチに決まっている。

その躍動感の描写は晩年まで衰えることを知らず、ウルトラマンコミカライズ以外にも野球漫画やゴルフ漫画といったスポーツ漫画の世界でもヒットを飛ばしている。内山まもると聞くと、青年誌でのスポーツ漫画をイメージする方も多いのではないだろうか。

そんな先生が、こと、特撮オタク界隈で文字通り神格化されるきっかけとなったのは、全く新しいウルトラマンの口の描写を生み出したからだろう。

ウルトラマンの口元というのは、ヒーローや怪獣のオリジナルデザイナーで芸術家でもある成田亨氏が、京都府・広隆寺の弥勒菩薩像から着想を得たアルカイックスマイルが特徴だ。どの角度から見ても微笑んでいるように見えるものの、感情からは解脱した超人のような印象を与えるようなデザインとなっており、テレビではどの角度から見ても神秘的な印象を与えることに成功している。

この、神秘的な超人・ウルトラマンというイメージは、裏を返せば子どもにとっつきにくさを与える面もあった。日本における特撮ブームのことを“怪獣ブーム“というのは、ヒーローよりも怪獣の人気の方が高かったからなのだ。

ウルトラマンを悪者に、怪獣を子どもの味方に描く展開は、初代ウルトラマンのころから歴代テレビシリーズを通しても度々描かれる定番の切り口だ。驚いたことに、現在放送中の『ウルトラマンブレーザー』(テレビ東京系列)でも、このフォーマットを使った話がまた新たな視座から描かれた。

とにかく、ウルトラマンの完璧な微笑みは、苦しみ、怒りに燃え口をパクパク動かす怪獣よりも近寄りがたい雰囲気の源泉であった。

ところが内山先生は、このウルトラマンの口をへの字口と解釈することで、ウルトラマンの神秘性をはがすことにしたのである。口の描き方の変更により、ウルトラマンが口を開けてしゃべっても不自然でなくなった。ウルトラマンの会話表現は『ウルトラマンレオ』のコミカライズ(小学館)において極地に至る。内山版レオは、大口を空けて感情豊かに喋り、冗談を言い、怒鳴り散らすキャラクターへと変貌した。

『ウルトラマンゼロ』や『ウルトラマンX』。『ウルトラマンZ』に『ウルトラマンタイガ』(いずれもテレビ東京系列)と、近年のウルトラマンは本当によく喋り個性的だ。これらの作品の母体となる、ウルトラマンの神秘性のはく奪を最初に手掛けたことこそが、内山ウルトラ最大の功績なのである。

ウルトラマンの命脈をつなぐきっかけに

復讐に燃えるゾフィー。大胆不敵な謎の戦士メロス。感情を爆発させながらジャッカル軍団に立ち向かう『ザ・ウルトラマン』作中でのウルトラ一族の姿は、衝撃をもって迎え入れられた。『さよならウルトラ兄弟』は、とにかく面白いということで話題となった。が、いかんせん掲載が児童誌であったことが災いし、それほど多くの人の目にとまることはなかった。本来なら、この手の漫画でよくある、マニアのみが知るカルト作品で終わる運命のはずだった。

ところが、ここで奇跡が起こる。1977年に、「コロコロコミック」(小学館)が創刊したのである。初期の「コロコロコミック」は、藤子・F・不二雄や、赤塚不二夫といった有名漫画家のギャグマンガを主力としていた。と、同時に早くからコンテンツタイアップを積極的に展開している。そんななか、ウルトラマンというキャラクターIPを使ったオリジナル展開の本作に白羽の矢が立った。1978年、『さよならウルトラ兄弟』は、タイトルを『ザ・ウルトラマン』と改題され「コロコロコミック」に再掲載された。

すると、本作の人気が大爆発。過去の内山先生のウルトラマンコミカライズと合体し、単行本化され、「ザ・ウルトラマン」自体の続編も新たに描かれたのである。この盛り上がりは、新しいウルトラマンをテレビで見たいという声につながる。その声は円谷プロへ届き、テレビアニメ『ザ☆ウルトラマン』の放送(タイトルは同じだが本作とは無関係)、そして特撮ドラマ『ウルトラマン80』放送という“第三次怪獣ブーム”を巻き起こしていった。

現在のウルトラマンシリーズの製作スタッフの多くは、この第三次怪獣ブーム時に幼少期を過ごしている。『ザ・ウルトラマン』のみに登場するウルトラマンメロスは、平成以降のウルトラマンのデザインのオマージュ元としてデザイナー陣から頻繁に名前が挙がるし、歴代ウルトラマンの物語をひとつの宇宙に落とし込んだ世界設定はよりパワーアップし、SF的な理論づけをされ「マルチバース」の名称で2009年から円谷公式設定となった。

余談だが、ウルトラマンシリーズの「マルチバース」設定の使用は、アメリカンコミック『アイアンマン』や『キャプテンアメリカ』でおなじみ「マーベル・シネマティック・ユニヴァース」より10年以上早い。ウルトラマンシリーズの関係者が、すべてのウルトラマン世界を破綻なく繋げたいと考えたのは、間違いなく『ザ・ウルトラマン』の影響だろう。

ちなみに本作は、2015年に、『シン・ウルトラマン』の制作会社である株式会社カラーの手によって、8分のショートアニメが制作されている。監督を務めた横山彰利氏は、2022年、『シン・ウルトラマン』の映画公開と、本作の何度目か分からない再編集単行本である『ザ・ウルトラマン 単行本初収録&傑作選』の発売に際し、「ザ・ウルトラマンの長編アニメ制作」を行いたい旨をX(旧Twitter)で発言している。

いまなお、内山まもるの作り上げたウルトラマンワールドは、ウルトラマンマニアに強い影響を与えているのである。

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この記事を書いた人

フリーの編集者。雑誌・Webを問わずさまざまな媒体にて編集・執筆を行っている。執筆の得意ジャンルはエンタメと歴史のため、無意識に長期連載になりがちな漫画にばかりはまってしまう。最近の悩みは、集めている漫画がほぼほぼ完結を諦めたような作品ばかりになってきたこと。

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