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読み進めるほどに“世界”が広がるタイトルの「チ」が快感 未体験の人が思わずうらやましくなる「魔性」な魅力『チ。―地球の運動について―』

チ。―地球の運動について―
『チ。―地球の運動について―』(魚豊/小学館)

読み進めるほどに広がっていく読書体験が◎

マンガに限らず、映画やドラマなどではストーリーはもちろんのこと、その作品名も重要な要素の一つ。そういう意味で本作のタイトル『チ。』はとても興味深い。インパクト重視、世界観を示す意味深なものなど、タイトルの傾向はさまざまだが、本作の場合、いずれにも該当すると言えるのかもしれないが正直、初見では頭の中に「?」が浮かぶほど意味がわからない。

サブタイトルとして「―地球の運動について―」と命名されているので、かろうじて地球の「チ」なのかと推測することができるのだが、後述するが実はタイトルに込められた意味はそれだけではない。ストーリーを読み進めていくうちに、いろいろな「チ」がそこにはあることに気づかされていく。この感覚が新鮮で面白い。

おすすめしたい作品であるのに、その詳細を伝えると読んだときの楽しみと衝撃が薄れてしまう。そんなジレンマにかられる『チ。―地球の運動について―』。本当は前情報なしに読み始めて奥深さを体感してもらうのが好ましい。そうはいってもまだ作品と出合っていない人にすれば、手に取る何かがほしい気持ちも十分に理解できるので、本作の魅力をできる限り伝えてみたいと思う。

自分の欲求に逆らえない主人公のパッションが熱い

今年の「マンガ大賞2021」で第2位にランクインしたこともあり、これまで以上に注目を集めている本作。作品の核を知るうえでまず知っておいてほしいのが、掲載誌である「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の公式サイト「ビッグコミックBROS.NET」内の作品ページに掲げられた、「命を捨てても曲げられない信念があるか?」「世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか?」というキャッチコピーだ。

本作の醍醐味はまさにこの言葉に集約されているといっても過言ではないかもしれない。時に人は真理の美しさというものにとりつかれることもあるが、ここでいう「真理」とは額面通りではなく、“自分が信じるもの”“自分が熱中するもの”という意味合い。

つまり、自分がやりたいと思ったことを、例えそれが愚かなことだったとしても貫き通す。そんな人物のドラマが繰り広げられる本作は、ある種“狂気”すら感じさせるのだが、心の奥の好奇心や探究心を刺激してくるストーリーにグイグイと引きずりこまれ、読んでいてすがすがしくなるから不思議だ。

ちなみに、同じ作者が描く『ひゃくえむ。』(講談社)も同じような方向性の作品。こちらも良作なので、また別の機会に紹介したい。

熱量あふれるセリフや衝撃的なストーリーが詰まった良質なエンタメ

ここまで観念的な方向から紹介してきたが、ネタバレにならない程度に作品世界にも触れておきたい。ゼロから楽しみたいという方は、できれば読んでいただきたいが、ここからは読み飛ばしてもらっても構わない(笑)。

あらすじを簡単にまとめると、物語の舞台は15世紀のヨーロッパ、異端な思想を持つ人間が迫害されていた時代。そんな社会のなかで暮らす主人公・ラファウの前にある日、謎の男が現れ、異端思想とされる“ある真理”の魅力にとりつかれる……というストーリー。もちろん“ある真理”もまた「チ」を成す一つの要素である。

主人公のラファウは、12歳にして大学に入学するほどの神童であり、合理性を重んじる少年。そんな彼が損得や危険性を顧みずに、「真理に迫りたい」という自分のやりたい気持ちに逆らえず突き動かされていく姿は、どこか危うさも感じさせるが、自然とその一挙手一投足から目が離せなくなるから面白い。

キャラクターだけでなく、熱量の高いセリフやメリハリが効いた演出なども痛快。テーマを最大限に生かすコマ割りやストーリー構造といったものが、ページをめくる手を止めてくれない。そして読み進めるほどに増えていく「チ」。この快感を是非とも味わってみてほしい。

少しだけネタバレにはなってしまうが、コミック第2集ではキャラクターに関してセンセーショナルな展開も。作品全体の流れから見ると軸になる要素は変わってはいないのだが、こういった仕掛けも読んでいてゾクゾクする。夢中になったものに情熱を注ぐ。誰に何を言われても曲げない。ネガティブな方向にさえ走らなければ素晴らしい生き方の一つと言えるかもしれない。単行本第3集が発売されたばかりなので、是非とも一気読みをおすすめしたい。

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