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自分で作る系のグルメ・料理マンガの『きのう何食べた?』は読む時間に要注意! 堅実に暮らす主人公らの姿に感銘

きのう何食べた?
『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)

BLマンガ……というより、むしろおいしい料理と毎日の暮らしに引きつけられる一作

皆さんは「グルメ系」「飯テロ系」と聞いたとき、どのようなマンガ作品を思い浮かべるだろうか。『美味しんぼ』(小学館)や『深夜食堂』(小学館)、『にがくてあまい』(マッグガーデン)など、人それぞれ最初に出てくる作品は異なるだろうが、なかでも『きのう何食べた?』(講談社)は、その手のジャンルとしては少しばかり“異色”かもしれない。

俳優の西島秀俊と内野聖陽のダブル主演で実写化された連ドラが人気を集め、映画化もすでに決まっているなど話題に事欠かない本作。そう。一見すると、料理上手で几帳面な性格の弁護士・シロさんこと筧史朗と人当たりの良い美容師・ケンジこと矢吹賢二、そんな恋人同士の日常が……と目に飛び込んでくるため、まさに「BL」的なノリが中心となっている印象を受けるからだ。

もちろんシロさんとケンジ2人の、直接的な描写こそないものの共に暮らすカップルとしての“親密度”“イチャイチャぶり”というのは十分に伝わってくる。ただそれと同じく、むしろそれ以上とも感じられるのだが、今作に実においしそうな料理が数多く登場。つまり、今作を“正しく”表現しようとするなら、「BLのカタチをとった、カップルが楽しむ日々の食事が描かれたマンガ」と言えるだろう。

シロさんらが作り出す飯テロ料理はもはや“悪魔級”

そんな堅苦しい話は抜きにして、とにかくシロさんが作る料理がとにかく魅力的。グルメ系マンガというと、俳優・松重豊主演で実写ドラマ化された『孤独のグルメ』(扶桑社)に代表されるように、主人公が食べ歩きする姿を想像してしまいがち。もちろん外食の良さを引き出すマンガとして面白いのだが、本作のように登場人物が自ら作って食べる系のグルメ、いわゆる「料理マンガ」を読んでいると、「おいしそう!」という感想だけでなく「自分でも作ってみようかな」と思える醍醐味もある。

近年ではこの自分で作る料理マンガが増えつつあり、昨今の世の中的な事情から、料理系マンガを参考に自宅での食事を……なんていう楽しみ方も。多くの料理系マンガは完成した食事だけを描くのではなく、その一品を作るためのレシピもしっかり掲載されている。ストーリーを味わいながら献立の助けにもなるかもしれない。実益と趣味を兼ね備えられるのはうれしい限りだ。

シロさんが作る料理には「一汁三菜の献立のとき少なくとも2品はノンオイル」「おかずは甘じょっぱい、しょっぱい、すっぱいのバランスを取る」といったような“マイルール”が存在。ケンジと2人で食べるものが中心なので、実際に簡単に再現できるようなレシピばかり。特別な素材を使うことはあまりない気軽さも◎。料理は苦手で自分は食べる専門という人でも、きっと一度はチャレンジしてみたくなることだろう。

印象的なレシピを絞って挙げるのは少々難しいが、強いて挙げるとすると、シロさんとケンジの思い出の味である「クリスマス限定メニュー」(2巻#9収録)はなかなか。これはケンジのためにシロさんが初めて作ったメニューで、ほうれん草入りのラザニアが実においしそう。その後、2人でクリスマスの定番メニューになるのだが、シロさんとケンジの思い出という調味料もあいまって、とても素敵なごちそうだ。

もうひとつ挙げるなら、「わかる! わかる!」と強くうなずきたくなる「サッポロ一番みそラーメン」(3巻#18収録)。普段はヘルシーを意識したラインナップが基本のシロさんが、“ザ・ジャンク”な食べ物の代表格の一つ、インスタントラーメンを食べるというのも興味深い。まさに1人ご飯の王道メニューで、デキるシロさんにもそういう一面があるのかと親近感がわくのも悪くない。個人的にはラーメンは塩派だが、1人で年越しする寂しさも吹き飛ばしてくれそうなほど、ケンジがアレンジしたみそラーメンに引きつけられ、読み終わった瞬間、深夜に関わらず再現に走ってしまった……。

そこに描かれているのは日々生きていくということ。2人の“幸せ”にほっこり

先ほど挙げた料理を決めるのにもずいぶんと時間を使ったが、それぐらい逸品ぞろいとも言えるのがシロさん作の料理たち。その食卓をさらに豪勢に飾るかのように並べられているのが、キャラクターたちが織りなす人間ドラマだ。特に注目すべきは「時間の流れ」。連載開始当初シロさんは43歳だったのだが、時の流れと共に彼らも年齢を重ね、読者と同じように“リアルタイム”で物語内の時間も経過していっているのが大きな特徴となっている。このことで、より一層彼らの日常や生き方に現実感が増し、世界に深みを与えているように思える。

シロさんとケンジの関係性も年を重ねるごとに変化。お互いのことだけでなく、その周りにいる人々との接し方なども徐々に変わっていき、それぞれが成長してパートナーや家族として成長していく。その姿を見ていると、まるで実際に彼らが自分の周りに存在しているかのような素敵な錯覚に陥り、いろいろな角度から味わいつくせる作品だとしみじみ感じられるのも良い。

さらに特筆すべきは「ありのままの毎日を生きている」ことと、言葉にすると少し恥ずかしいが「愛」がしっかり盛り込まれている点。彼ら自身はもちろん周囲の人たちも含め、人生は何が起きるかは誰も予想はできないもの。計画を立てその通り順調に生きていくのは難しく、予期せぬアクシデントに遭遇することもある。それでも日々働き、日々食事し、日々生きていく。そのことだけは変わらないという当たり前の事実を、やさしく温かに伝えてくれている。愛については、もはや言わずもがなだろう。

シロさんとケンジが送る「平凡で幸せな毎日」。そのことのありがたみと大切さを再確認させてくれる。とはいえ、作風的にはまったくもって押しつけがましくもなければ、めいいっぱい重厚感を漂わせているわけでもない。そこはかとなく染み入り、あっという間にほっこりさせられる。シロさんとケンジが紡ぐ幸せを、ぜひおすそ分けしてもらってみてほしい。

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