NNHK Eテレで放送したTVアニメでも人気の『舞妓さんちのまかないさん』は、京都の舞妓さんたちが送る共同生活を舞台に繰り広げられる、ほっこりと暖かな物語。読めば読むほど癒される、優しい世界観がクセになりますよ。
京都・花街を舞台に描かれる舞妓さん文化
舞妓さんといえば、京都・花街。その花街では、舞妓さんたちが“屋形”(置屋)と呼ばれる場所で共同生活を送っています。ちなみに、屋形を出た舞妓さんは、“芸妓”として独立し生活を始めます。
そう、京文化の象徴でもある“舞妓さん”とは、実は半人前な見習いさん。花街では“仕込み”といわれる踊り、茶道、着付け、茶道、華道、礼儀作法などを教わりながら芸妓を目指す、主に十代の女の子たちが“舞妓”と呼ばれるのです。
意外に知られていない(?)花街の基礎知識も、『舞妓さんちのまかないさん』を読めば自然と学べるはず。知識欲が旺盛な方にも、お勧めの作品なのです。
本作の舞台となる屋形“市”では、10人ほどの舞妓さんが生活しています。その中の一人、“百はな”(ももはな)こと“すーちゃん”(すみれ)は「百年に一人の逸材」と噂される若手で、瞬く間に周囲から一目置かれる存在へ成長していきます。
もう一人のヒロイン・キヨは、すーちゃんと同じく青森で生まれ育った幼なじみ。中学卒業後、大親友のすーちゃんとともに舞妓を目指して京都へ来たものの夢破れ、ひょんなことから“市”の“まかないさん”を務めることに。屋形の台所(食生活)を担い、舞妓たちの食生活を支えるまかないさんは、なくてはならない裏方さんなのです。
そんな二人が織りなす日常を、優しく楽しくほっこりと、ときにホロッと切なく描いた物語。それが『舞妓さんちのまかないさん』です。
舞妓さんの日常がわかっちゃう豆知識?
NHK Eテレでアニメ化されたことからもわかるように、物語は実に平和で、とても暖かなもの。皆が悲しむような事件は起こらず、悪人も登場しないため、老若男女、幅広い層に優しく受け入れられる作品です。
その折々に、ストーリーと絡み合うように花街・舞妓・芸妓の姿が織り込まれるわけです。作中で描かれる花街の豆知識だけでも、まとめれば単行本化できそう?
筆者が個人的にツボだった豆知識は、舞妓さんが履く厚底下駄。正式には「おこぼ」(ぽっくり)と呼ばれるそうですが、高さは10cm以上あり、桐製でかなり重いのだとか。その底部はくり抜かれ、新米舞妓さんのおこぼには鈴が付けられているそうな。“ちりんちりん”と涼やかな音色を響かせながら歩く舞妓さんは京都の風物詩ですが、実は新人の見習いさんだとご存知でしたか?
舞妓さんたちが何を学び、何に苦労し、どんな想いで日々を過ごしているのか。逸材という評価にも奢ることなく、何事にも真摯で一生懸命&頑張り屋な百はな(すーちゃん)の姿を通し、読み手の誰もが前向きな気持ちになれる作品でもあります。
舞妓さんを陰で支える“まかないさん”
努力家で一直線……な“すーちゃん”とは対照的に、キヨはマイペースで、一見するとボーッとした女のコ。互いのいいところを(無意識に)認め合い、頼り合う二人は、絶妙なコンビともいえそうです。
仕込みで多忙な舞妓たちにとって、何よりの楽しみは食生活。キヨが作るご飯やおやつは、彼女たちにとって最高の癒しだったりします。
幼少時から祖母に家事を教わってきたキヨの得意メニューは、実家を離れた十代の舞妓さんたちには何より嬉しい家庭料理。優しい味わいが伝わってくるような料理の絵面は、グルメ漫画としても一級品でしょう。作品の世界観を崩さない、自然体で美しい食材や料理描写も高ポイント。アニメ版で、登場した料理が“今日のまかない”として紹介されていることにも納得かと。
基本が家庭料理なので、グルメ漫画にありがちな特別料理やレア食材は登場しません。当たり前の食材を大きなリュックいっぱいに背負って帰宅したキヨは、季節や天気、舞妓たちの想いを考えながら、いつも優しいごはんを作ってくれます。弱冠16歳にして“おふくろの味”を提供するキヨ、恐ろしい子です(笑)。
ちなみに、キヨが作る家庭料理の基本は、青森の郷土料理。キヨたちの故郷(実は作者の出身地)・十和田市エリア(青森県では三八上北と呼ばれる地域)に伝わる郷土料理が、作中に度々登場します。
イカメンチ、ひっつみ、ながいもすいとん、なべっこだんご、あずきばっと、かますもち、干し餅のバター焼き……。東北北部以外の方には「何それ?」と思う郷土料理ですが、東京出身の筆者にも不思議と懐かしさを感じさせるものばかり。何よりおいしそうで、すぐにでも食べたくなるため、空腹時は目に毒かも?