悪役令嬢ものの“新境地”を切り拓く『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』

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『悪役令嬢の中の人〜断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします〜』(原作・まきぶろ、キャラクターデザイン・紫真依、漫画・白梅ナズナ/一迅社)
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“悪役令嬢もの”人気は止まらない! その魅力を考察

異世界への転生がエンタメ、特にラノベやマンガ、アニメなどで一大勢力となっていることはもはや疑いようもないが、もし自分が転生するとしたらどんな異世界や職業がいいだろうか。勇者やモンスター、特殊な能力を持ったキャラクターなど、さまざまな異世界転生ものがある中、ここ数年で注目度が高まってきているのが“悪役令嬢”だ。

悪役令嬢とはその名の通り、ストーリーにおいて悪役を担う、または物語が進行するにつれ、そうなる可能性を秘めたキャラクターのこと。主に少女漫画や女性向けのコンテンツのなかで、不幸な主人公を恵まれた立場や人脈を通じていじめるお嬢様・お姫様のことを指す。少女漫画などでは最終的に、健気な主人公に、周囲の人物たちが魅了されていくことで、立場や人脈を失い不幸な最後を迎えることが多い。

異世界転生ものの亜種である“悪役令嬢もの“は、この絶対に不幸になるというテンプレートにはまった悪役令嬢を主人公に置き換えた作品群。転生やタイムループものが主流で、「ヒロインが悪役令嬢として転生(orタイムリープ)」→「悪役令嬢として将来訪れる不幸な運命の回避を目指す」というのが定番スタイルとなっている。

悪役令嬢ものには人気作やヒット作が数多くあるが、転生先(もしくは物語の舞台)は貴族などが存在する中世が多い。それはファンタジー的な要素を表現しやすく、そこに悪役令嬢というアイデアを掛け合わせることで爆発力アップを企図しているのだろう。さらに転生先の世界にもともと存在していた悪役令嬢と主人公が転生した悪役令嬢とでは、同一人物でも性格が異なるためギャップが生まれ、意外性や共感が得られるのも魅力を引き立てているのだろう。

悪役令嬢×転生にさらにもうひとつ仕掛けが施された新鮮さがキラリ

そんな悪役令嬢のものに別角度からのアレンジを加えているのが、今回取り上げる『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』。転生やタイムリープといった悪役令嬢ものとの最大の違いは、主役となる悪役令嬢の“人格”にある。

いずれ大人になると断罪されてしまう乙女ゲームの悪役令嬢・レミリアに、ゲームをプレイしたことがある少女・エミが転生。エミは、持てる知識を駆使して最悪の事態を回避するために行動していくという、一見すると正統派の悪役令嬢×転生もののストーリー。なのだが、実は転生した先に現れる“あるキャラクター”によって、レミリアとして生きるエミの運命が激変してしまう。

その結果、極力ネタバレを避けておくと、エミは心を閉ざしてしまい、代わりにレミリアが自分の体を取り戻すことに。レミリアは、同じ体の中で人生を共にしてきたエミのため、復讐を誓うのだ。

つまり、転生してきたキャラクターではなく、本来の悪役令嬢が、その世界でなすはずだった悪役ぶりを発揮して、エミが巻き込まれた事態の打開を図ろうとするのだ。複数の構造を立体的に組み合わせることで、これまでの悪役令嬢転生ものとは一線を画すテイストで楽しませてくれるのだ。

目高い画力&表現力がストーリー展開を華麗に演出

復讐劇という趣向はもちろんのこと、体を共有するエミとレミリアがどのように生きて互いをどう感じていたか。また、サラッと描かれているものの、レミリアがエミの知識などを知っていく過程も着実に描くなど、緻密な設定がストーリーをロジカルに彩る。それでいてエミとレミリアの違いを含め、キャラクターやエピソードの端々に至るまで繊細に紡がれており、グイグイと作品の世界観に引き込まれていく。

単行本は2022年4月に1巻が発売されたばかり。悪役令嬢もので転生した先のキャラクターの人格にまで踏み込んだタイプは、ありそうでなかった作風で実に興味深い。魅惑的なレミリアの悪そうな笑顔をはじめ、美麗で圧倒的な画力が作風をより際立たせている。同じ顔であるのにも関わらず、エミとレミリアの微妙なニュアンスの違いを感じさせるのも素晴らしい。今後の展開に素直に期待が持てる。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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