※一部ネタバレあり
知れば知るほどほれていく男、それが斎藤一
「伝説の維新志士」で「人斬り抜刀斎」の異名を持ち、古流剣術「飛天御剣流」の使い手にして修羅のごとき強さを誇る剣客。なんともロマンあふれる設定に心くすぐられるキャラクター、それが『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の主人公・緋村剣心(ひむら・けんしん)だ。
今さら説明するまでもないかもしれないが、『るろうに剣心』は『週刊少年ジャンプ』で連載されていた人気作で、テレビアニメや俳優・佐藤健主演で実写化した映画もヒット。現在は『ジャンプSQ.(スクエア)』で新章『北海道編』が連載されている。
そんな本作には、剣心以外にも背中に背負う悪一文字がトレードマークの相楽左之介(さがら・さのすけ)や御庭番衆の御頭・四乃森蒼紫(しのもり・あおし)、神谷活心流道場師範代・明神弥彦(みょうじん・やひこ)ら、タイプの異なる“強者”が数多く登場。どの人物にもドラマがあり語りたくなるが、年齢や再読などを重ねる中で第一印象からより輝きを増していくキャラクターもいる。
筆者にとって、それが新選組三番隊隊長・斎藤一(さいとう・はじめ)。初登場時は剣心に対し弱くなったとクールに言い切り対決を仕掛けるなど、どちらかというと“悪役”チックだったが、しっかり見つめてみると、剣さばきや男としての潔さは、まさにいぶし銀。そんな彼の生き様や強さにスポットを当ててみたい。
一つの技を突き詰める潔さと「牙突」の華麗さに感銘
斎藤一が斎藤一たる所以は、その信念や生き方にあるのは間違いないが、その前に彼の強さについて言及したい。なぜならば情熱と論理性を兼ね備えた彼のキャラクターを理解するのに、もっともわかりやすいからだ。
斎藤の代名詞といえば、左手一本で刀を持つ独特の構えから繰り出される平突き技「牙突」。再会時の戦いで剣心を追い詰めるなど、その威力は折り紙付き。相手を仕留める確実な一撃があれば問題ないという考えから、攻撃はこの一手に絞り極限まで鍛え上げる。無謀なようでいて理にかない、強さへの執着と探究心を持ちつつも冷静な判断力を失わないのは、斎藤の人柄をストレートに表現していると言える。
何かと“武器”や“道具”は多いと選択肢が増え有利になる面もあるのだろうが、反面、器用貧乏に陥る危険性も。ユーティリティーかスペシャリティーという、ビジネスの場面にも相通じるような側面が感じられるのも興味深い。
そんな彼は『北海道編』でも牙突を繰り出し読者を魅了。それが第2巻収録のエピソードである「牙突牙突牙突!」だ。剣心が多彩な剣術を繰り出すのに対し、「対空」や間合いなしの状態から繰り出す「零式」など型の違いはあるものの、それすべて牙突。ここまでくるとある種の狂気すら感じるが、思わず胸の奥が熱くなるし単純にカッコよすぎる。
愚直なまでの真っ直ぐさと信念を貫き通す意志の強さ。その姿に美しさと憧れを感じ、問答無用でグイッと引きつけられる。そうした意味では斎藤こそ、作品世界で“最強”と呼ぶにふさわしいキャラクターの一人だろう。
「悪・即・斬」に見る、ぶれない生き方を実現する手段とは
剣術へのこだわりも粋だが斎藤一を支えるもの、それが「悪・即・斬」の信念。彼の唯一にして絶対の指標であり、その志に従って行動していることが、イコール斎藤一という存在である最大の要因と言える。
新撰組の一員として戦場を駆け巡り、新しい時代まで生き抜いた結果、幕府側として戦ってきたにも関わらず新政府の警官に。この行動だけを見ると情けない……と思いがちだが、彼はまったくぶれていない。むしろ安いプライドに踊らされることなく、歩むべき道や目指すべき場所のために動く。言うのは簡単だが、他人からどう見えているのかを気にしたら、なかなかできることではない。
もちろん「悪・即・斬」は極端な考え方ではあるが、何事も己の思想・信条に照らし合わせて判断するプロセスは、大いに見習いたい。といっても貫き通すには尋常ではない努力と胆力が求められそうだが……。
信念を貫き通している点では、剣心も「不殺(ころさず)」の信念で人を助けているし、敵側で登場する人物の中にも自身の理念に基づいて行動している者が多いのも本作の特徴の一つ。みな求めているものは根っこの部分ではもしかしたら共感できるのかもしれないが、表面的な方法や目指すべき方向性に相違があり激突する。剣心と斎藤の関係性は、その最たるものだろう。
剣心はわかりやすく王道寄りのヒーローで強さや優しさはピカイチ。一方、斎藤も不器用ではあるが、その実ヒーロー性を兼ね備えたキャラクターであることは疑いようがない。作品を読む人の年齢や性別、趣味嗜好でお気に入りは変わるのは当然だが、単なる孤立や独りよがりではない斎藤一の一本気な生き様を味わってみてほしい。