※展開などについて一部ややネタバレあり
鳥山明がプロットを手がけるマンガ版『ドラゴンボール超』
『ドラゴンボール』といえば多くを説明するまでもなく、鳥山明による全世界的に大ヒットを記録した超人気作。最近では関東ローカル放送ながら、アニメ『ドラゴンボール改』の「サイヤ人・フリーザ編」全54話の再放送が発表されるなど、その人気はいまだ衰えることをしらない。
2015年7月から2018年3月には、アニメシリーズとしては初となる鳥山明原案の『ドラゴンボール超』が放送されていた。オリジナルストーリー満載で好評を博したのだがコミック版があることはご存じだろうか。
月刊誌『Vジャンプ』(集英社)にて同名タイトルで連載されている本作は、アニメシリーズや劇場版などのストーリーをアレンジした作風。とはいえ同誌の公式サイトに掲載されている対談によると、「鳥山明のプロットを基に作画担当・とよたろうが膨らませて描き、毎回ネームを鳥山がチェック」というプロセスを踏んでいるとのこと。
つまり、描いているマンガ家は違えども大ヒット作の“続編”的な立ち位置にして、しっかりドラゴンボールしている作品と言えるのだ。
完全新作のオリジナルエピソードに見応え
『ドラゴンボール超』のテレビシリーズをベースにした内容ではあるものの、月刊誌での連載ということもあり、各エピソードの長さには違いがあるほか、割愛されている場面もある。もちろんアニメ版にはなかったシーンやオリジナルの描写も存在。マンガ版だけでも十分楽しめるが、アニメ版を観ているとより味わいが深まるケースもあるので、ドラゴンボールファンとしては素直にうれしい。
さらにマンガ版オリジナルのエピソードもあり、それが今回紹介したい『銀河パトロール囚人編』だ。舞台は「力の大会」終了後、ブロリーとの死闘も終結した後の時間軸で、謎の男たちに魔人ブウが連れて行かれそうになるところから物語が開幕。その後、銀河パトロール隊員のメルスが登場し、凶悪な脱獄囚である“星喰いのモロ”を捕まえるためだったことが明かされる。
ちなみになぜ魔人ブウなのかというと、ブウの中に眠る大界王神がモロの魔力を封じる技を持っているから。それにしても大界王神とは何とも懐かしい。原典のドラゴンボールでも数コマ存在が示されたのみという、かなりレア度高めのキャラクター。しかもモロは全盛期の力を取り戻すためにドラゴンボールを欲しがったり、戦う相手のエネルギーを吸収して強くなる能力だったりと思わずニヤリ。こういったオマージュを詰め込むサービス精神も“らしさ”が感じられ悪くない。
失われない“らしさ”を常に体現してくれる存在、ベジータ
ところで『ドラゴンボール』には多くの魅力的な要素がそろっているが、なかでもキャラクターは外せないポイントの一つ。思い入れのあるキャラクターは人それぞれだろうが、ここで取り上げたいのは孫悟空と並ぶサイヤ人のひとり、ベジータだ。
原作では地球を侵略にきた凶悪な敵だったのだが、紆余曲折を経ていまや頼れる“戦友”に。「仲間」と表現するより、こちらの方が個人的にはしっくりくる。初登場時は悟空たちを圧倒的な戦闘力の差で軽くあしらっていたベジータだが、共闘し始めたあたりから次第に役割や性格に変化が……。
もちろん『ドラゴンボール』随一の“かませ犬”と言って間違いはないだろうヤムチャほどではないが、悟空に振り回されっぱなしなのは、愛きょうがあるとも人間性が出てきたとも言えるが、「孤高のエリート」であるベジータには似つかわしくないと個人的には感じてしまう。
初期のベジータは残忍でニヒルなカッコよさを備えていたが、悟空に敗れたことで一変。常に超えられない壁として立ちはだかる悟空の存在が、ベジータの生き方を根本から変えてしまった。その結果、彼は“自分らしさ”を失ってしまうことに。
ただそこで腐らないのが、ベジータがベジータである所以。一度は悟空をナンバーワンと認める表現をするものの、切磋琢磨しいつか再びと努力を惜しまないことこそ、実はもっともベジータらいし要素とも言えるかもしれない。
つかず離れずに見えて心の熱さが愛すべき理由
そんなベジータの天才らしさを堪能できるのが、モロとの戦いが繰り広げられている単行本14巻。特訓を終えた悟空でさえ苦戦するモロの前に現れたベジータは、「おまえより強いヤツがここにいるからだ」(13巻P188)と見得を切って戦闘を始める。自信たっぷりのベジータ節はまさにクール。しかもとある星での修行により体得した“新たな力”でモロを弱らせていく姿は、“最強”ベジータ再びといった感じで胸アツだ。
この新技こそがベジータの真骨頂。戦闘力の高さなどに目がいきがちなのだが、強くなるために手段を選ばず、人があきらめてしまうような過酷さや難度を乗り越えられる素養を持っていることが、ベジータが天才である証明。本人も「同じトレーニングをしたらオレの方がはるかにセンスがいい」(14巻P26)と自覚し、さらに「今回はオレの勝ちだカカロット」(14巻P26)とライバル心をむき出しに本気で言い放っても嫌みを感じない。
モロと戦いながら吸収や合体、融合といった『ドラゴンボール』ワールドに存在する特殊な技に納得できず、フェアに闘いたいだけと口にした言葉にも共感。もしそういった類いの技がなければ、スーパーサイヤ人がそもそもいなければ……という思いに至るというもの。もっともそうするとベジータの“良さ”は開花しなかったかもしれない。そう思うと実に興味深い。
モロとのバトルの行く末はベジータというキャラクターや生き様を考えてもらえば想像できるとは思うし、実際に読んでもらいたいのでここでは多くを語らない。一つだけ言うならば、「お前も人の力に頼らず自分の力だけで闘ってみろ」(14巻P30)というセリフが、どこまでもカッコいい。いつまでも見ていたい。そんな気持ちにさせてくれるベジータは、やはり愛すべきキャラクターと言える。