映画『翔んで埼玉』では「巨大生物の足跡が発見され、空に巨大怪鳥も舞う秘境の地」と称えられた(!?)グンマー:群馬県。『翔んで埼玉』は続編映画の製作も発表され大盛り上がり。となれば気になるのは……その後のグンマ! そんな群馬県を舞台に、知られざる地で繰り広げられる秘境生活を描く作品が『お前はまだグンマを知らない』なのです(いやちょっと待て)。
グンマに来て……生きて帰った者はいない!?
映画『翔んで埼玉』で世の中に拡散された“ご当地自虐コンセプト”は、埼玉県・群馬県・栃木県・茨城県間の激烈な闘争心に火をつけました。北関東バトルの勃発です。
そのうちの一県、群馬県:グンマに、南関東のライバル千葉県:チバから転校することになった男子高校生が、物語の主人公。が、チバからグンマ最強の大都会・高崎へ向かう電車内で、かつてグンマに引っ越した幼馴染から「グンマに来て……生きて帰った者はいない」と謎のメッセージを受け取ります……。
「悪いことは言いません。すぐ引き返すことをお奨めします」
「あそこは地球上に唯一残された秘境」
「とりあえず一番いい装備で行け」
「グンマに行った友達と連絡が取れません」
「弱肉強食がグンマの掟」
半裸族の県民が“関東のサファリ”で野生動物と共生し、成人式では崖からバンジージャンプなどの怪グンマ情報に翻弄された彼は、ほどなく乗車中の高崎線でグンマの洗礼を受けることになるのです。
「籠原駅(グンマ県境も近づいた埼玉県)から先へは、後方車両に乗り換えなければ進めないだと!?」 「駅に着いてもドアが自動で開かないだと!?」 「車内のヤンキー率が急上昇し、乗客がグンマの瘴気に犯されているだと!?」
果たして彼は、秘境の地・グンマで生き抜けるのでしょうか……。
他の追随を許さない「心にググッとグンマ県」(群馬県観光キャッチフレーズより)
ちなみにJR高崎線では、確かに籠原駅で前5両が切り離されます(前5両:籠原止まり/後10両:高崎行)。もちろん儀式や掟ではなく、籠原から先の各駅はホームが短く、15両編成だと運行できないため。JR事情まで面白おかしくネタ化してしまう一面に、本作のパワー&コンセプトが垣間見えますね。
車両ドアが自動で開かないのも、寒冷地では当たり前の寒さ対策。乗降時にドア横のボタンを押して開閉しますが、降りる際に閉めないと、車内の乗客から睨まれるので要注意(苦笑)。
要は首都圏の一都三県(東京・神奈川・埼玉・千葉)と異なる生活スタイルを拡大解釈し、ネタ化しているわけで。まさに“ご当地自虐コンセプト”ですね。
また、第1話のサブタイトル「心にググッとグンマ県」は、群馬県の観光キャッチフレーズ「心にググっと 群馬県」が元ネタかと。ある意味、いろいろ勉強になる漫画なのです。
参考までに、近隣(ライバル?)他県の観光キャッチコピーは…。
・栃木県:本物の出会い 栃木
・茨城県:漫遊空間いばらき
・埼玉県:彩の国さいたま
・千葉県:おもしろ半島ちば
やはり、群馬と栃木は強力なライバル関係に!?
良くも悪くも雑多で闇鍋的なパワーにあふれる作風
群馬といえば、先日県知事が《都道府県魅力度ランキング》に噛みついたことでも話題を集めました。
同ランキング2021年の群馬県は44位。2019年以降は45位→40位→44位と、なるほど低迷しています。43位→47位(最下位)→41位の栃木県、47位(最下位)→42位→47位(最下位)の茨城県などライバルと比較しても、遜色なく。それだけ自虐ネタが豊富だといえますが、最下位を免れている分、より特徴がないとも!?
そんなグンマを描く作者:井田ヒロトは、神奈川県出身ながら、中1から群馬県に在住。まさに、自らの体験が反映された作品ともいえそうです。話題(=ネタ)はグンマならではの風習や習慣、地元名物グルメから、サスペンスやミステリー&ホラーなど多岐にわたります。良くも悪くも雑多な、闇鍋的な雰囲気も漂うので、好き嫌いは分かれるかもしれません。
作画も個性的で、いわば“おどろおどろしさ”が味わいにも。個性あふれるパワフルな作風は第1話から全開なので、その迫力&勢いを前向きに感じられたなら、続刊まで一気に読み進められるはず(これ大事)。
ドラマ版・映画版は原作と趣が異なる面もあるだけに、そちらの印象で食わず嫌いにはならないほうが良いかと。2018年にはアニメ化もされましたが、当時、地上波は地元ローカル局:群馬テレビでしかオンエアされなかったのが残念。