『そのモガリは熱を知らない』――医師免許を持った刑事と新米法医が“相棒”として死因究明に奔走! こだわりが利いた法医学描写&ミステリー要素は本格的

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『そのモガリは熱を知らない』(NICOMICHIHIRO/講談社)
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法医学×ミステリーは相性抜群! リアルにこだわった描き方も◎

医師免許を持ちながら刑事である主人公・狩結ラン。彼女は高度な解剖のテクニックを持っており……と、キャラクター設定だけを見るとちょっとしたヒーローもののような印象も受けるが、本作は法医学を題材に、専門的な描写に関しても“直球勝負”。そのあたりが苦手な人には少しばかり刺激が強めかもしれないが、ただ解剖するだけでなく、ただ死因を究明するだけでなく、その後の推理や結末に至るまで、徹底的にこだわり本格的に描かれている。

しかも法医学ミステリーというコンセプト通り、お仕事ドラマ的ではなく、ストーリーの根幹部分に法医学要素を散りばめ、その周りをミステリーで色づけていく構成。第1話では「最期にかかる“医者”」というエピソードタイトルが絶妙で、法医学者そのものを指しているだけではなく、主人公・狩結ランが物語内で果たす役割も匂わせているようで、なかなか素敵で粋なネーミングに感じる。

“常識人”なバディがストーリーをわかりやすく演出

医師免許を持ち解剖手技も申し分ないものの、基本的には刑事のため、「監督医」となる医者が必要。そこで登場するのが、「医者になりたい」という純粋な想いはあるが配属先が決まらず、職場探しに失敗してしまった研修医、南だ。彼は途方に暮れているところを、たまたま「検案」(※死因確認作業)にかり出されるのだが、研修医の彼ができることは少ない。しかもその場にいる警察は病死を主張し、そそくさと終わらそうとする……。

マンガに限らず、ドラマや映画などエンタメ作品で死因究明がテーマとして扱われる際、たびたび取り上げられるのが「日本の死因究明率」の低さ。ちなみに日本の不審死の解剖率は11.5%で、世界的に見るとかなり低い状況の模様。いろいろ制度的なものも含め事情があるのだろうが、脚色はされているとはいえ、本作の第1話のような状況だったらと考えると、病死や自然死と判断する可能性はあるのだろうが、なんだか一抹の怖さを覚えてしまう。

そこにさっそうと登場したランが、死因を疑うことでストーリーは展開していくのだが、死亡した理由がわかったときに彼女が発する「死んだ側にそれって関係ある?」というセリフが◎。解剖後の遺体を労る言葉をかけるなど、どこまでも遺体側に立った視点とものの言い方は強烈に何かを訴えかけてくる。

今後“相棒”のようになっていくであろう南も、最初の検案現場で違和感を察知するなど見どころがありそう。また第2話以降で、法医学に興味を持ちつつもあくまで生きている側の人間として行動している点や、少し刑事チックな役回りなどをしているようにも見られ、互いに補完し合う関係性は興味深い。

バディものにして法医学ミステリーは完成度高し! 是非“青田買い”を!!

基本的には刑事でありながら、警察が事件性なしと判断した案件を掘り返していくランと、新米だが医師として関わっていくことになる南。この2人のバディが中心となり真相究明にあたっていくのだが、彼女らが所属する「特別法医捜査室」のメンバーも、一癖も二癖もありそうなキャラクターなので、今後どのようにストーリーに絡んでくるのか楽しみだ。

また序盤からランの過去には何かがあるのでは……という描写がされているのだが、それが第1巻の最終ページで明かされるのも悪くない。その過去を踏まえ、ランがなぜ法医学を学び、なぜ刑事になったのか。そして死体が語ることに強いこだわりを持つのはどうしてなのか。人物像や世界観にリアリティをプラスする意味でも、またエンタメとして作品を盛り上げるためにも、“隠し味”の効果には期待したいところ。

2021年12月には第2巻が発売されるのだが、第1巻だけでも1話完結から数話にまたがるタイプまで、バリエーションに富んだエピソードが描かれ、読む側をワクワクさせる。物言わぬ遺体の声を“聞き出し”、目に見えていたはずのものがスーッと様相を変えていく展開は、まさにミステリーであり、真相が明らかになった瞬間の驚きと納得は、爽快な読後感を味わわせてくれる。

少しどころかかなり風変わりなランの、どこか浮世離れしたような部分を南が常識的に補完する。この2人のキャラクターと関係性が魅力的だからこそ、ストーリーも映えてくる。まだまだドラマは始まったばかり。“青田買い”という表現は失礼にあたるかもしれないが、本格とファンタジーがほどよく調和し化学反応を起こしている今作を、知らないのはもったいないと思う。個人的には、いずれ実写化も期待したい。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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