その生き様に笑い、学ぶ――“婚活”に敗北し続け、立ち上がり続ける37歳の明日は……『婚活バトルフィールド37』

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『婚活バトルフィールド37』(猪熊ことり/新潮社)
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「誰からも相手にされない……だとぉ……!?」――“美人は美人でも……”な37歳が戦場へ

「ここで私は未来の夫を――狩る!!」。趣味は海外旅行とホットヨガ、住みたい街は東京都南青山、好きな食べ物は寿司、相手に求める年収は1千万円くらい――。そこそこ美人な容姿で、男に困ることなく生きてきた派遣社員の赤木ユカだが、そんな彼女も気付けば独身の37歳。先日別れた彼氏への未練も断ち切りたい赤木は、婚活始まりの日を終わりの日にする意気込みで、ある日銀座で開かれた「ハイスぺ男性限定婚活パーティ」へと乗り込んだ。

「この会場には私以上の美人はいない。勝利は確定」。容姿には自身のある赤木。年収1500万・港区在住というイケメンに目を付け、その男性にのみブリっ子、その他の参加者には塩対応で立ち振る舞うも、当然ながら誰からも相手にされずに終わる。同じく実りのない参加者となっていた派遣先の正社員・青島(婚活歴8年のベテラン)にダメ出しされつつ“婚活のイロハ”を説かれた赤木は、その後も青島とつるみつつ、さまざまな婚活の場に挑んでいく。

その下衆さがむしろ清々しい――婚活戦線にかちこむ、見習いたい強メンタル

「とら婚」というサービスをご存知だろうか。同人コミックやゲームなどを販売する店「とらのあな」系列の、“オタク”を対象とした婚活サービスだ。登場時はまさかの新事業として驚かれたが、すでに創業5周年を突破。2021年12月までの成婚者数は700名を超えるというから目を見張る。

そんな「とら婚」、どちらかと言えば“婚活市場におけるオタク”をかなり客観的に見ており、利用者に対して歯に衣着せぬ物言いが多いことで知られる。明らかに“高望み”な男性利用者の相談に対し、「残酷なことを申し上げます」と現実的な妥協ラインを説いた回答がTwitterで拡散されたのを見たことがないだろうか。こういった話は、当事者には大変耳が痛いだろうが、第三者としては反面教師的な内容で、得てして学びが多いものである。

“諦めない女の婚活コメディ”を銘打つ『婚活バトルフィールド37』も、婚活の参考書とするならば主人公の赤木は完全に反面教師側だろう。だが、婚活当事者ならひた隠しにするであろう内心、その下衆さをさらけ出す強メンタルぶりは、一周回ってむしろ清々しい。

「ミスキャンパス3位」で「元モデル(コミュニティ誌)」と、とても生々しいラインで“そこそこの美人”であることが示唆される赤木。物語は、そんな彼女があらゆる婚活の場に臨んでは散り、そしてまた立ち上がるという流れで進む。婚活を意識する彼女の年齢が37歳というのも、なんとも現代的だ。転がし方によっては重さや嫌味さも出そうなところを、カラッとした印象で読めるのは、ひたすらに自己肯定感が高い赤木のキャラクターゆえだろう。

また、そんな赤木のバランサー的な相棒として、なし崩し的に婚活戦線をともにする同年齢の青島というキャラクターがいるのも本作の面白いところ。「婚活歴8年のベテラン」という説得力があるようでまるでない婚活強者(?)の彼女が、赤木に婚活の何たるかを説き、ともに散り、ともに立ち上がる。その姿もまた、本作に謎の清々しさをもたらす。赤木、青島ともに、決断力と行動力と高さ、そして切り替えの早さには笑いつつ感心してしまう。

婚活、婚活、また婚活……それでも“自分の幸せ”を諦めない姿に見習うものとは

赤木の戦場は「ハイスぺ男性限定婚活パーティ」に始まり、その後も「オタコン(オタク同士の合コン)」、「料理コン」、「マッチングアプリ」、「(親による)代理婚活」……などと次々に挑んでいく。幸せの形や定義こそ多様化する昨今だが、その一方で幸せを掴もうと自ら動き、くじけても立ち上がる気概はきっと、普遍的に必要とされるものではないだろうか。

“諦めない女”の背中を笑う一方で、その不屈の精神を見習いたくもなる一作だ。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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