外国人にまつわる犯罪の“現実”をテーマに据えた作風に拍手!
作品に登場するメインキャラクターは、警視庁国際捜査係の鴻田麻里と「警察通訳人」の有木野了。2人の職業を見たらわかるとおもうが、ジャンルとしてはいわゆる警察ものに分類される。ところが、その響きから少しは想像つくかもしれないが、いかんせん役職名に聞き覚えがない……という人も多いのでは。
本作は、日本にやって来た外国人が犯罪に巻き込まれ、その捜査に携わる人物を主軸にストーリーが繰り広げられていくという構成。警察もの作品はそれこそ数多くあるものの、「まだまだそういうやり方があったか!」と思わず手を叩きたくなる。
近年、単純に訪日する外国人旅行者だけをとっても、街中を見回してみる限り、年々その人数は増加している印象が強い。もちろん日本在住の外国人もいるだろうから、実際に国内にいる外国人の人数はかなりのものになると思うが、彼らが犯罪に巻き込まれた場合、一体どうなるのだろうか。知っているようで意外と知らない要素にスポットを当てた作風は、お世辞抜きに新鮮と言えるだろう。
外国人絡みの犯罪問題に待ち受ける言葉の壁に挑む
ところで主要人物の一人、有木野の就いている警察通訳人という職業はどのようなものだろうか。端的にいうと、警察の業務関連で発生した外国人が関わる事案について通訳を務めるのが、警察通訳人の仕事となる。文字通りの業務内容ではあるが、通訳人が関わる現場は実に多岐にわたる。取り調べはもちろん、現場検証や家宅捜索、さまざまな事件の被害届の手続きなど、そこに日本語が話せない外国人がいれば活躍の場になる。そして、現実の警察組織にも、通訳を担当する職員は実在する。
本作の警察通訳人・有木野は仕事に感情を一切交えない性格の持ち主で、その“相棒”となるのが、自分の目で見るまで納得しないという鴻田。必要に応じて2人はバディを組んで事件捜査に当たる。それぞれの立場から、異なる2つの視点で外国人が関係する事件が綴られることで、ストーリーに奥行きが出ているのは間違いない。
母国語が通じる場所ならまだしも、異国の地で犯罪に巻き込まれてしまったら、または犯罪に手を染めてしまったら……。本作に登場するのはそういった人々だ。事案に携わる人が相手の言語を理解し話せるならいいが、いつもそうとは限らない。国籍が異なる相手の捜査には言葉の壁が立ちはだかるとき、そこに警察通訳人が現れ仲立ちをするという、国際捜査の“現実”をリアリティあふれる描写で見せてくれる。
知っているようで知らない“現実”が知的好奇心を刺激
作品内で扱われている事件は大事件と呼ぶものよりは、人と人、日常のどこかで発生している可能性が高い題材が多めの印象。意識するまでもなく、読み進めていく中で、自然と自分たちが日々暮らす街は、いかに多国籍であるかに改めて気づかされる。さまざまな言語が飛び交うことを考えれば、今後ますます警察通訳人の重要度は高まっていくのでは、と想像に難くない。
また、外国人を題材にしつつも、表現が受け手側にとって好ましくない場合もあるが、伝わりやすさを重視した表現として、“マイノリティ”側が抱えるアレコレを彷彿させる要素も裏側に垣間見える。
例えば、東京都の外国人居住者、警視庁における女性警察官の割合などの数値が示されているのも一つ。言葉の意味合いを額面通りに受け取るなら、警察や協力者、当事者のいずれも、数字上では“マイノリティ”に該当することになる。そういった“事実”が、ストーリーにどう広がりを与えてくれるのだろうか。
ストーリーを彩る作画も、温かさとクールさが同居しているようなタッチがマッチ。言葉が通じない国で犯罪に巻き込まれたら……と想像するだけでゾッとするが、新機軸の警察ものでありバディものである本作で、深まる2人の仲や有木野の過去も次第に見えてくる中、どのような展開で楽しませてくれるかに大いに期待が持てるところだ。