イマどき怪異はツッコミ担当の常識人!? 祟り狂わせるのは性癖……?『令和のダラさん』

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『令和のダラさん』(ともつか治臣/KADOKAWA)
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「儂見てする会話がこれ……?」イマどき怪異×イマどき姉弟の「胆力ぅ……」な邂逅

ある嵐の夜。片田舎に忌み地として伝わる集落跡の奥にある、“何か”を祀った祠が倒壊した。山守を担う祖父が帰らないことを心配した三十木谷日向と薫の姉弟はその様子を見に行き、あろうことか当の“何か”――怪異「屋跨斑(ヤマタギマダラ)」と遭遇してしまう。「山田サン……?」「いや姓名じゃねーし」。しかし、全く動じる様子のない三十木谷姉弟は、その後も怪異のもとに足を運ぶようになり、やがて怪異に「ダラさん」という呼び名を命名。懐かれた「ダラさん」も、等身大で接してくる姉弟と対等に交流を深めていく。

著:ともつか 治臣
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「怖い」ものを「怖がらない」非日常的日常のおかしさ……イマっぽさあふれる怪異モノ

2022年12月時点で、Twitterのフォロワー数は約7.4万人、YouTubeのチャンネル登録者数は約13.4万人。ネット社会においてはいっぱしの有名人と呼べそうな数字が並ぶが、誰のものかと言えば実はこれ、『リング』(鈴木光司/KADOKAWA)の「貞子」のアカウントである。白いワンピースを身にまとい、長髪で顔を隠す姿が不気味なジャパニーズホラーの看板女優たるキャラが、現代では「怖い」ではなく「かわいい」扱いを受ける人気者。何ともイマっぽい怪異の受容だ。

『令和のダラさん』も、まさにそんなイマっぽさがあふれる怪異モノだ。元ネタは、「2ちゃんねる」(現「5ちゃんねる」)発の都市伝説、いわゆる“ネットロア”として著名な怪異のひとつ。出どころが出どころだけに、商業連載化にあたりTwitter連載版から固有名詞などが置き換えられたが、“それらしさ”は損なわれていない。怪異の成り立ちを深掘りするパートこそシリアスなのだが、本作の見どころはやはりその非日常的な日常のおかしさだろう。

こういった非日常的な存在が登場する日常モノと言えば、読者に近い視点を持つ人物がズレへのツッコミを務めるのがある種の定石だが、そのツッコミ役が怪異のダラさんなのが本作だ。まあ、ダラさんを「おるって聞いてた」からと簡単に受け入れ、「ほなまたな!!」と去った(「また」があった)三十木谷姉弟にツッコミが務まるわけもなく。カップ麺を喜びケータイを使いこなすダラさんのツッコミは、いい意味で俗っぽくキレキレだ。

そんな、ダラさんがツッコミに回らざるを得ない人間側だが、ボーイッシュ女子&“男の娘”という主人公姉弟以外も実にクセが強い。薫との関係がアブなげな、趣味がコスプレ衣装製作の薫のクラス担任や、薫を見る目がこれまたアブない、同人活動が趣味の三十木谷家のご近所さんなど、なんとも味付けが濃いのだ。作者いわく女子は「性癖の煮凝り」だそうだが、つまるところは「二重三重の意味で人間の業が深い」のツッコミ待ちなのだろう。

本物の怪異が「ソシャゲの美女キャラに似てる」――“業が深い”受容が令和らしさか

作中、ダラさんが薫に改めて「この異形を見て何も思わなかったのか?」と尋ねるくだりがある。すると薫はこれに、ソシャゲに登場する蛇半身の美女キャラクターに似てる、とあっけらかんと返す。思えば、妖怪などの怪異を描いたマンガの第一人者である水木しげるが創作した「猫娘」ですら、アニメ最新作では“イマっぽい”変化を遂げていた。先述の「貞子」しかり、怖さにすら親しみ(と性癖)を見出す、「業が深い」受容こそ令和らしさなのかもしれない。怪異の新時代をひた走る、オカルトコメディに恐れ入るばかりだ。

著:ともつか 治臣
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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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