いわゆる“山ガール”人気に乗ってアニメ化もされた、女子高生&登山・アウトドアのコラボ漫画『ヤマノススメ』。本格的な登山というよりは、身近な山登りライフに“ゼロから始めるキャンプ&アウトドア”的な要素を盛り込んだ、ゆるふわバイブル的な読み物をイメージするとわかりやすいかも?
身近な「山登り」が題材の“山ガール”漫画って……実は少ない?
登山は、趣味のジャンルとして世の中に浸透していながら、意外なほどコミック化された作品が少ないテーマ。『岳 みんなの山』『孤高の人』など本格的な登山漫画は高評価を得ているものの、もっと身近な“山登り”を題材にした作品には、なかなかお目にかかれなかった。
“山ガール”がブームになってからも状況は変わらず、テレビなどで盛んに“山ガール”番組が生まれても、コミックでパッと思い浮かぶ作品は『山と食欲と私』ぐらい。ソロ登山と“山ごはん”にこだわる物語は面白く実用的なものの、ヒロインが20歳代後半だけに、読者層・年齢層が限られる作品だとも。
そこで、何となく“山登り”に興味があって……というライトな層にもアピールでき、より気軽に読み始められる作品としてお勧めしたいのが、この『ヤマノススメ』なわけで。
主人公は絵に描いたような運動音痴で、お裁縫やアクセサリー作りが大好きな超インドア派・女子高生。おまけに、幼少期にジャングルジムから転落したトラウマから高所恐怖症という、登山とは程遠い日々を過ごす女のコ。そんな彼女の毎日が、高校に入学し、活発&行動派で山登りにハマり中な幼なじみと再会したことで大きく変わり始め……。
「山登り」ライフを通して成長していくJK“山ガール”
“山登り”初心者な二人は、小学生が遠足で行く標高200メートル以下の山や高尾山などで山好きな女子高生・中学生たちと出会う。内気でコンプレックスばかり抱いていた主人公は、彼女たちとのコミュニケーションを通し、いつしか自分の想いを行動で示せるようになっていく。そんなヒロインの成長過程も、作品の魅力に。
富士山への挑戦で高山病にかかり、八合目で下山するなど、その“山登り”ライフは紆余曲折。谷川岳や木曽駒ヶ岳などの本格登山へとステップアップしながら、彼女の生き様がどう変わっていくのかを読み続けるのも面白い。その姿は、ともすれば陰気な雰囲気すら漂わせ、後ろ向きなキャラクターに歯がゆさを感じるほど。ゆるふわな可愛らしさが強調されたアニメの印象からすると、違和感を覚えるかも? 作品の本質は(ときに愚直なほど)真面目な山登りライフなので、そこを勘違いしなければ、アニメから入ってきた方も楽しめるはず。
「やりすぎない」感も心地よい? 初心者向け山登りバイブルに
少し見方を変えれば、深夜アニメとして男性視聴者層を意識したアニメ版に対し、主人公と同世代の女子高生から大人まで、女性読者層も幅広く受け入れられる作風が原作コミックだとも。男くさく古風な作品が多い登山漫画の中で、ちょっとゆるふわな山登りライフを描く本作品は貴重な存在だ。
また、「ちょっと山登りに興味あるかも」「山登りをしてみたいけれど、どこからどうしたらいいものやら…」と思っている方には、初心者向け山登りバイブルといった側面も。主人公たちが山登り&アウトドア装備を少しずつ揃え、活用していく様は、初心者ほど参考になるはず。経験者が見ても納得できる内容なので、読み込むほど奥深さを感じるのでは。
いっぽうで作者の意向なのか、バイブル的な要素を前面に押し出しすぎない配慮も感じられる。アウトドア経験者には「お! これは……」という興味津々な要素が、比較的サラッと描かれていたりするわけで。そんな山ガール&アウトドア人気に便乗しない“やりすぎない”感もまた、本作品の心地よさに。
日頃から運動不足な人ほど読んで欲しい作品!?
ちなみに、作品の舞台となる埼玉県・飯能市の登山用品店では、原作コミックとコラボしたオリジナルグッズ(登山用品)も開発・販売されている。それを購入した筆者は、主人公たちが初めて登った標高197メートルの天覧山(埼玉県飯能市)に勇んで挑戦したものの、息も絶え絶え、ハーハーゼーゼーでフラフラしながら山頂に到達し、日頃の運動不足を痛感したという……(その後、筆者はウォーキングを始めました)。
なわけで、運動不足を感じている皆さんはぜひ、この作品を読んで山に登ってみましょう。ひょっとすると、何かが変わるかもしれませんよ!?(笑)