表層的ではない奥の奥を描く内容が◎。女性だけでなく男性にも刺さる少女マンガの意欲作『さよならミニスカート』

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さよならミニスカート
『さよならミニスカート』牧野あおい/集英社
目次

何から何まで異例づくしだった連載スタートも、読んで納得

連載がスタートしたのが2018年。当時「このまんがに無関心な女子はいても、無関係な女子はいない。」という作品のキャッチコピーや、掲載誌『りぼん』(集英社)の相田聡一編集長が「この連載は、何があろうと、続けていきます。あなたに届けるために。」という異例のコメントを発表したことなどが話題を呼んだ。

センセーショナルな“デビュー”を飾った『さよならミニスカート』は、その後「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞2019」で第10位、「このマンガがすごい!2020」オンナ編で1位を獲得。多くの支持を集めている。では何がそこまで読者の心をつかんでいるのだろうか。

本作はいわゆる「少女マンガ」に分類されるが、その実ジェンダーや家族、人間関係といった現代を生きる人たちとは切っても切り離せない題材が盛り込まれており、性別はもちろん世代を問わず訴えかけてくる“何か”があるのが特長となっている。

著:牧野あおい
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女性視点で提示されていくが、性別・世代に関係なく通じる問題意識

ミニスカートのアップ、そしてアイドルグループ「PURE CLUB(ピュアクラブ)」の登場シーンから幕が上がり、握手会の模様などが描かれアイドルとして活動するヒロインの物語が綴られていくのかと思いきや、唐突に登場するのがブレザーにスラックス姿の女子高生・神山仁那。実はPURE CLUBの不動のセンター・雨宮花恋として活動していた彼女だが、握手会イベントでファンの男にケガを負わされて引退し、グループのセールスポイントの一つでもあったスカートを履くことをやめたのだった。

作品タイトルにもあるスカートだが、仁那も第1話で同級生の女子から履かない理由を聞かれ「自分にはそれ以外無いってこと?」と投げかけたり、男子生徒に対しては「スカートはあんたらみたいな男のために履いてんじゃねえよ」と一喝したり、象徴的な意味合いとして使われているのが興味深い。

女性目線で描かれてはいるが、ともすれば男女とも誰にでも起こりうるようなら無思慮で無遠慮な差別的な発言や行動など、心に深く染み入るように刺さってくる。セリフやシーンは鋭くもある反面、どこかなまめかしく目が離せない。

それでいて本作の面白いところが、仁那の同級生である長栖未玖という存在。徹底的に“女性らしさ”というものを排除して生きる仁那に対し、未玖はどこまでも“女性らしい”振る舞いをする。もっと言ってしまえば多くの男性が好むような女性像に完璧に徹し、女性専用車両についても不要論を唱えるなど、どこまでも男性社会に波風を立てぬよう行動しているように映る。

正反対のキャラクターとして描かれている2人だが、根底にはどちらにも今の世の生きにくさが見え隠れする。衝突や軋轢を生み出しながらも自らの主張を貫き通すために邁進する仁那だが、そのためにスカートを履くのをやめたり髪を短くしたりと手段として男性側に寄っていってしまっている矛盾がある。一方、未玖は未玖で生きやすさと引き換えに己の主張のようなものを見失っているような印象を受けるのだ。

どちらの生き方が正しいのかという答えを出すことは至難の業だが、はたしてどうするのがいいのか。こうしたある種の生きづらさに通じる問題は性別や年齢に関係なく存在している。それをわかりやすい、しかも根深い事例を通して包み隠さず提示する本作には潔さが漂い、カタルシスとまでは行かずとも「そうだ!」と声を上げたくなるような心地良さが感じられる。

シリアスな題材を軸に据えつつも王道&エンタメ成分も充実

世界的なMeToo運動の高まりを機に、改めてジェンダー問題が意識されるようになってきた。男性にとっては、今までの無意識に行っていた発言や行動が大きく女性を傷つけている可能性があったことを思い知らされる描写も多く、読むにはちょっとした痛みを伴うかもしれない。

もちろん本作で描かれていることを読んだからといって、女性の考え方や心情を完全に理解することは当然難しい。それでもその違いや壁、隔たりとも呼ぶべき何かを共有することができれば、その先に何かしらの変化があると思わせてくれるのも事実。男女問わず支持を集めているのがその証拠だろう。

ただそういった重みのあるシリアスなテーマを扱いつつも、異色さの影に隠れて見えづらいが、女の子が悩み苦しみながらも成長するという少女マンガの王道的な展開もしっかりと描かれている。さらにアイドル時代の仁那を襲った犯人が誰であるか。仁那の恋愛模様など、ミステリーやラブストーリーといったエンタメ要素も抜群なのが心憎い。

残念ながら現在は休載中だが、自分の中にある価値観や偏見といったものと自然と向き合える作品なので、少女マンガだからと敬遠せずに多くの人に読んでみてほしい。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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