働く人ならきっと共感!? 新感覚お仕事マンガ『無能の鷹』に見る“デキる人”“デキない人”の違いと可能性

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無能の鷹(1)
『無能の鷹』はんざき朝未/講談社
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タイトルの遊び心が◎。鷹だったら爪を出したい!

何かしらの職業や業界、とりわけ専門性の高い職種をテーマにした「お仕事マンガ」は数多くあるが、例えば主人公が新人やその道の天才といったパターンがオーソドックスな設定になりやすい。ところがその真逆をいくのが『無能の鷹』。ぱっと見は有能そうだが実は仕事ができない鷹野ツメ子と、仕事は卒なくこなすが頼りなさそうな見た目で損をする鶸田という、どちらも会社員として大きな弱点を持つキャラクターが中心となっている。

そもそも「能ある鷹は爪を隠す」「鳶が鷹を生む」に代表されるように、タイトルに含まれている「鷹」という言葉は“デキる”イメージが強めにも関わらず、爪をむき出しにしてカッコいいのにデキない設定は斬新で引きつけられる。

しかも同僚からデキる人オーラが出ている理由を問われた際、「昔からお仕事ドラマが好きだっただけ」「内容よくわからなかったけど……」と回答する姿に何とも言えない哀愁を感じて一気にクセに。彼女の採用理由が「人物重視」で「優秀なヤツは一目見りゃわかる」という理由だったというのも、エッジが効きすぎていて心がチクチクするのに面白い。

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自らの存在価値を必要以上に比較や深掘りしない姿勢に感銘

これだけ強烈なキャラクターがいると、その動向を見守るだけでストーリーが広がっていきそうでそそられるが、今作の凄みはそれにとどまらず、鷹野に成長しようという意欲が感じられない点も見逃せない。

どうやら「難しいことを考えると頭が痛くなる」(※本人談)ようで、努力すら放棄しているのだが嫌みを感じさせず、むしろ自分を卑下せず自信たっぷりな生き様に肩入れしたくなるから不思議だ。

そんな彼女は自己肯定感が高いように見えて、ある意味憧れのような感情も抱きそうになるが、むしろ社会や会社における自分の必要性や価値といった誰もが考えてしまいそうなことには重きを置かず、それ以外のところで生きている模様。その感性がまた愛おしくもうらやましく思え、ますます目が離せなくなり興味深い。

得意と苦手が異なる人同士が力を合わせて生まれる“強さ”

会社員としてできないことだらけで成長の兆しすら感じさせないキャラクターが中心ということで、どんな物語が紡がれるのかワクワクするが、仕事ができなそうな外見だが実際はしっかりとこなせる鶸田が絡んでくることでドラマが動き出す。

平たくいえば2人で営業に行くとスムーズに商談が進み……という展開になるのだが、プレッシャーに弱く自信がない鶸田を、怖いもの知らずの性格でデキる人オーラ全開の鷹野がフォローする構図が、想像以上に見応え抜群。クライアントと押し引きしつつ繰り広げられる商談シーンは多くの人が共感しやすく、2人が見せるさりげないコンビ感も心地いい。

一般的には優れた者同士が事に当たる方が多いだろうし成功率も上がるのだろうが、鷹野&鶸田のように弱点や短所を抱えた者同士、逆に言えば互いの長所で補い合うことで好結果を生み出す。そんな相乗効果はきっとあるだろうし、むしろ長所を伸ばして生きていくのは決して悪いことではないはず。シンプルに前向きな気持ちにさせてくれるのもいい。

「Take it easy」そう思える心の余裕と生き方に憧れる

現実には鷹野のようなタイプは周囲から内心よく思われない場面も出てくるだろうが、それでも鷹野や鶸田のような仕事への向き合い方を可能性として捨ててしまうのはもったいないと感じさせてくれる何かがある。

自分の能力や欠点を顧みるとどうしてもネガティブになりがちだが、他人と比べずあるがままな自分を貫き、それでいて誰かに価値観や思想を押しつけない鷹野。個人的にはこちらに引かれてはいるのだが、鶸田の心情がよく理解できるという人も。どちらが良いではなく、こういった人もいるといった「事例」のようなスタンスで描かれていると感じられるのも好感が持てる。

鷹野&鶸田の人生スタイル、クライアントと繰り広げるコントのようなすれ違いぶり、お仕事マンガとしての爽快感まで兼ね備えた充実ぶり。彼らが行き着く先、特に開きなおったかのような生き方を謳歌する鷹野が今後どうなっていくのか。ゆるくフワッと寄りそってみたい。

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この記事を書いた人

映画やドラマ、アニメにマンガ、ゲーム、音楽などエンタメを中心に活動するフリーライター。インタビューやイベント取材、コラム、レビューの執筆、スチール撮影、企業案件もこなす。案件依頼は随時、募集中。

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