少女漫画の王道を壮大なスケールで描く大河ロマン『暁のヨナ』

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暁のヨナ
『暁のヨナ』(草凪みずほ/白泉社)
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不朽の名作『ガラスの仮面』を彷彿させる闇

策と陰謀、伝説と難題、愛と情……。少女漫画=恋愛脳作品という単純な見方だけでは気づかない、ドス黒い闇が渦巻く世界こそ、実は少女漫画の核心だったりもします。その代表例が、不朽の名作『ガラスの仮面』でしょう。ある意味、少女漫画の方向性を定めた作品ともいえそうです。

ヒロインは、これでもかというほどの挫折や悲しみを背負い、人を信じては裏切られ、それでも真っ直ぐ前向きに生きていく。この力強さに、少女漫画の王道を感じる方も多いのでは?

そうした要素をギュッと凝縮しつつ、壮大な大河伝奇ロマン作品に仕上がる『暁のヨナ』を、今回は取り上げます。「策と陰謀、伝説と難題、愛と情」が複雑に絡み合う作風は、『ガラスの仮面』を彷彿させるといっても過言ではなく。累計発行部数1000万部超と男女問わず支持される背景に、『ガラスの仮面』をダブらせてしまうのは……自分だけ?

ヒロインの恋愛ありき”だけでは終わらない物語

物語の舞台は、いかにも大陸半島系な世界観が広がる高華王国。国王の一人娘・ヨナは、優しい父と、護衛役の武人・ハクらに愛されていました。が、ヨナが16歳の誕生日を迎えたその日、思いもよらなかった事件が王室を襲い……。唐突に過酷な運命へと放り出された彼女の運命は……。

という基本設定は典型的な大陸系・大河ドラマですが、ここで二人のキーパーソンが。

一人目は、ヨナが想いを寄せていたにもかかわらず、王室を裏切り、国王を殺害した従兄・スウォン。自分の命まで狙ったスウォンに対し、「なぜ?」と揺れ動くヨナの想いは……。

もうひとりは、ヨナの命を救い、彼女を守るため流浪の身となった幼なじみ・ハク。叶わないヨナへの想いを胸に秘め、何かと対立する彼女の幸せを願い……。

超絶イケメンなスウォン&ハクとヨナの関係性は、見方によっては絵に描いたようなハーレム物語。男子2:女子1という設定も、少女漫画の王道なわけで。ヨナを取り合うことになるスウォンとハクに、天真爛漫な天然さで両者の想いに気づかず、彼らを振り回してしまうヨナ……。

ただ、彼らの運命&人生は、“ヒロインの恋愛ありき”なサイドストーリーだけでは終わりません。そこが一般的な少女漫画と異なるポイントで、彼らの進むべき道や考え方が、王女・ヨナと王国の運命を左右することに。

追って登場する他キャラも含め、登場人物一人ひとりの描き込みが深く、目が離せない。一見すると不親切な感情描写ながら、読み進むにつれ、彼らの想いや立ち位置に気づかされる。その絶妙なさじ加減には、作者による登場人物への深い愛情も感じられます。

スケールの大きさと細かい心理描写を両立させた作風は、本作ならではの世界観だとも。とはいえ基本は“大河ロマン”なので、捲土重来なドラマを期待しすぎると、肩透かしを食らうかもしれません。

「私は強くなりたい! 阿保のままいたくない」

また、幼く見えがちな絵のタッチに、物足りなさを感じる方も? 少女漫画耐性ともいえそうですが、ヒロインの年齢設定は16歳。彼女を守るナイト役の男子たちも、平均年齢は18歳。年齢相応のキャラクターデザインが違和感を生むほど、壮大な物語でもあるわけで。

むしろ注目すべきは、ときにハッとするほど華麗な、草凪みずほ作品ならではの描写や世界観でしょう。コミック(単行本)だとわかりにくいかもしれませんが、要所要所で織り込まれる見開きページの緻密さ・美しさは驚愕のレベル。読み飛ばさず目を止めることで、作者の描きたかった世界観が見えてきますよ。

自分を守ったハクが重傷を負い、自らの無知・無力さを痛感したヨナは、こんな言葉を口にします。

「私は何も知らないけど、阿呆のままいたくない」

次々と降りかかる試練に立ち向かい、心が折れそうになりながらも前を向き、歩み続けるヨナ。「(守られるだけでなく)強くなりたい!」と願う彼女の人間性こそ、誰もが共感できる、本作品最大の魅力でしょう。それはまさに、『ガラスの仮面』ヒロイン・北島マヤに相通じる“強さ”なのです。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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