“ゾンビ”といえば、多くの方はジョージ・A・ロメロ監督が手掛けた名作映画『ゾンビ』をイメージされるはず。同作品の登場以来、欧米はもちろん日本でも数多くのゾンビ映画が作られてきたことは、ご存じの通り。そんな“ゾンビ”を学園コミックとコラボさせた異色作品が、この『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』だ。
学園とは……ゾンビ・ホラーの極限状況を映し出す鏡!?
と、ここで前述の“異色”という言葉が気になった方は、本作品にハマる資質があるとも!? 世にゾンビ映画は数あれど、こと正統派ゾンビ・ホラー(?)作品に限れば、学校を舞台とした作品はさほど多くない。未成年や子どもへの影響に厳しい欧米では、学校で生徒が他生徒を襲う&喰らうシチュエーションなどご法度……といった事情もあり、むしろ海外で高い注目を集めた“異色の”ゾンビ作品が、この『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』なのだ。
物語は、学校生活に空虚さを感じていた主人公が、校内で信じられない光景を目にしたことから始まる。人間(教師)が人間(教師)を襲い、喰らおうとしている!? いち早く異常を察知し、ゾンビ化した親友まで倒さなければならなくなった彼らは、ゾンビの巣窟となった学園から脱出できるのか……!?
ゾンビ映画のポイントは、極限状況での人間ドラマにあるともいわれる。この極限状況を生み出すためには、何かしらの閉鎖空間がうってつけで、なぜかそこに居合わせてしまった……的なシチュエーションがモアベター。
つまり、主義主張や思考力・趣味性も異なる、同年代の雑多なキャラクター(=生徒)が違和感なく同じ閉鎖空間を共有する学園=学校とは、まさに鉄板な、究極のゾンビ舞台だともいえるわけで。もちろん、倫理観を無視すれば……という条件付きではあるけれど。
ちなみに、男女の人数がほぼ同数で、男女間のコミュニケーションやシチュエーションを作り込みやすい点も、学校が極限状況の人間ドラマに適するポイントだろう。
わかりやすく魅惑的なキャラで描かれる“究極の人間ドラマ”
本作品でサバイバル劇を展開する主人公チームにも、様々な個性・キャラ・戦闘能力を持つ美少女たちが揃う。極限状況下で進歩・成長していく彼女たちの姿には、作品の本質も見え隠れする。
実は良妻賢母型の戦闘派美女、サバイバル能力が天下一品なツンデレ美少女、極限状況で意外なほどのタフさを発揮するグラドル系美少女など、様々なキャラが見せる特異な人間性もまた、作者が伝えたかった世界観なのだろう。
彼女たちはゾンビ・サバイバルという極限状況において、嫌でも自分の立ち位置・生き様・進むべき道などを意識させられていく。ゾンビ作品のキモでもある“究極の人間ドラマ”が、魅惑的な美少女キャラというわかりやすい形を通し、伝わってくるわけだ。
いっぽうで、ゾンビ映画にありがちなグロテスク描写は自主規制されているため、ゾンビ作品は過激シーンがちょっと……という方でも物語を楽しめるはずだ。
本格的&マニアックな世界観も原作者逝去で絶筆に……
ゾンビ描写に関しては、ロメロ監督が描くベーシック・ゾンビに、ほぼ忠実かと。
登場するゾンビは決して走らないので、映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『28日後…』『28週後…』のように、ゾンビが全速力で追いかけてくることはない。ガラスを突き破ったり、物を壊すこともないため、走力や腕力を持つゾンビ=邪道派な方も安心だ(苦笑)。音に敏感で集団化する(=群れやすい)など、本能に導かれたような動きを見せる一面も、オリジナル・ゾンビを意識させるものだ。
また、サバイバル作品らしく、登場する銃火器や車両、航空機などが本格的&マニアックな点も見逃せない。地球規模でのゾンビ発生から各大国がパニックに陥り、弾道ミサイル・電磁パルス攻撃の応酬で世界は文字通りのサバイバルに……といった状況下、米海兵隊も真っ青な銃火器を手に、EMP対策されたハンヴィーを駆る高校生たちは文句なくカッコイイ(物語序盤に主人公の相棒となるバイクが、KTMらしきオフ車なこともバイク好きの心をくすぐる)。
途中から視点がズレ始めたTVドラマ『ウォーキング・デッド』のように、人間ドラマに偏重しすぎることもないため、ゾンビ・サバイバル好きな方なら素直に読み進められるはずだ。いっぽうで、《学園黙示録》《HIGHSCHOOL》とタイトルにもなっている“学園脱出サバイバル”要素が、物語序盤だけで終わってしまう点は残念だとも。その後は街中からショッピングセンター(『ゾンビ』へのオマージュ?)や警察署(『バイオハザード』の影響?)へと舞台を移し、サバイバルのスケール感は拡大していくのだが……
もちろん、物語を再び学校へと戻し、改めて《学園黙示録》を描く構想があった可能性も否定はできない。しかし残念なことに、本作は長期休載を繰り返した後、原作者(佐藤大輔)逝去により絶筆となってしまい…… 国内はもちろん海外からも連載再開を望む声が挙がるものの、やはり継続は難しいようだ。
事実上の最終巻となった単行本・第7巻(2011年発行)以降の連載では、予想外の展開や復活キャラなど新たな方向性も見え始めていただけに、絶筆は残念でならない。作品に興味を抱いた方は、既刊の単行本だけでも、絶版となる前に入手しておくことをお勧めしたい。