※ややネタバレあり
一巻ごとに待ち受ける怒涛の展開が病みつきになる
優しい自慢の父親が稀代の殺人鬼だったなら、あなたはどうするか―。
作中には様々な伏線が散りばめられ、読み進めるごとに点と点が繋がり、線となっていく。
『親愛なる僕へ殺意をこめて』は、スリリングな展開と濃厚な人間ドラマが楽しめるサスペンス作品である。原作は『爆笑頭』の井龍一、作画は今作が連載デビューとなる伊藤翔太というフレッシュなコンビが手掛けている。
大学生の浦島エイジは、知らぬ間に同じ大学に通う美女・雪村京花と付き合っていたなど、数日間の記憶を失っていることがあった。
周囲におかしな行動を指摘されることもあり、次第に二重人格を疑い始める。実はエイジは、かつて世間を賑わせた“LL”と呼ばれる残虐な殺人鬼・八野衣真の息子であった。ある日エイジは、自宅の押し入れから記憶にない大金と血まみれの金属バットを見つけ、その後LLの手口と同様の殺人事件が起こったことで、“B一”と名付けたもうひとつの人格と向き合うことを決めた。
B一と模倣殺人との関わりや、京花がLLの被害者遺族であることなど新たな事実を次々と知り、父親の無実を信じるエイジ(B一)は真犯人の姿を追う。
個性的なタイトルが象徴する、復讐のための2つの人格
物語の冒頭は、表面と考えられる浦島エイジの視点で展開される。だが、中盤から徐々に裏面と考えられていたB一の視点へと変わり、正にB一が主人格であり、エイジは副人格であったことが明かされる。
読み進めなければ分からない巧妙な展開が用意され、終始読者を飽きさせない。ミスリードも多く、何が偽りで何が真実か、主人公のエイジと同じ気持ちで探っていくことができるのだ。
猟奇殺人鬼LLとされる父親・八野衣真の無実を信じ続けるB一。真実に迫ることで、B一(エイジ)の身は危険に晒され、数々の面倒な事態へと巻き込まれてしまう。
逮捕前に焼死した父親が実は殺されていたことを知ったB一は、第8巻でついにその真相に辿り着き、いよいよ「LL事件」の真実を知ることとなる。
手に汗握るストーリーはテンポ良く進み、しっかりと意外性溢れる真実を炙り出す。人間ドラマも濃厚かつ下地があり、拍子抜けするようなこともない。
本作は、愛する父親を信じ続けた息子の戦いの物語であり、復讐を誓ったエイジともうひとりの自分の物語でもある。他にも、LL事件がもたらした―被害者家族の物語、LLに憧れた若者の物語など、多彩な側面があり、大いに読み応えがある。
独自の視点で物語を最大限に味わおう
『親愛なる僕へ殺意をこめて』は、我々の考え方などにも作用する秀作である。
『週刊ヤングマガジン』・ウェブコミック配信サイト『コミックDAYS』にて連載され、現在は終了している。全11巻完結。
殺人事件に見える無限の側面を知り、昨今の事件においても色々と考えさせられる。犯人はどんな人物で、どんな動機で、社会にいかなる影響を与え得るのか―。
果たしてエイジ(B一)の復讐は叶うのか、LL事件の真犯人とは。
主人公とともに全ての真相を知り、読者皆さん独自の感想に辿り着いてほしい。