何でもアリ! な“SF人情なんちゃって時代劇コメディ”
「ギャーギャーギャーギャー やかましいんだよ 発情期ですかコノヤロー」
侍というにはあまりに荒々しく、チンピラというにはあまりに真っすぐな目をした男……その登場から早くもはたとせ。漫画連載開始20周年を迎えた2023年からアニメ放送20周年を迎える2026年までの間、さまざまなイベントなどで盛り上げる「20周年プロジェクト」が発表された大作が『銀魂』である。
『銀魂』は累計発行部数5,500万部を超える、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載されていた人気漫画。SF、時代劇、ギャグ、アクション、人情や絆などたくさんの要素を詰め込んだエンターテインメント作品でもある。序盤で笑わせていたかと思えば強敵とアツいバトルを繰り広げたり、切ない展開でほろりとさせたり……。同じ作品内で、エピソードごとにこれほどギャップがあるのも珍しいかもしれない。幕末の偉人をもじった名前の主要キャラクターはもちろん、最近の有名人やその発言、他の有名漫画作品のパロディやオマージュも満載で、わかる人には「きっとアレだな……」と笑えるだろう。漫画でよくあるキャラクター人気投票ですら作中のネタとして登場する、何でもありの世界なのだ。
「天人」(あまんと)と呼ばれる宇宙人たちの侵略を受け、幕府も傀儡と化した江戸――。廃刀令のもとに刀を取り上げられ、侍が衰退の一途をたどる中、侍魂を持ち続ける男がひとり。主人公・坂田銀時は、人々から依頼があれば何でも行う、何でも屋「万事屋」を営む侍。普段の銀時は商売あがったりで(たまに依頼も入るが年中金欠)、パチンコに明け暮れ、家賃や給料もろくに払えないダメな大人。「死んだ魚みたいな目」と多くの人間から言われている。主人公らしからぬ無気力でやる気のない風貌、銀髪の天然パーマが特徴だ。しかし、仲間や知人、依頼主を苦しめる強敵が現れれば、一転。「洞爺湖」と文字が刻まれた木刀を振るい、圧倒的な強さでなぎ倒していく。
銀時に助けられた縁から、押しかけ同然で万事屋で働くことになったメガネがトレードマークの少年・志村新八、宇宙でも最強クラスの戦闘種族「夜兎」の血を引く大食いの美少女・神楽。3人プラス1匹(神楽が拾ってきた超大型犬・定春)から成る「万事屋」が江戸で暮らすさまざまなキャラクターとともに、日々ドタバタ劇を繰り広げるのが物語の前半。後半の「将軍暗殺篇」以降は最終長篇の「銀ノ魂篇」まで、大切な人間や江戸、果ては地球を護るため、文字通り身を削るような闘いに身を投じていく。後半部では、重要キャラクターの退場もあり、なかなかショッキングな場面もあった。
とはいえ、哀しいままでは終わらせないのが『銀魂』。要所に差し挟まれる小ネタやギャグのおかげで、テンポよく一気に読める。ただし全77巻と超大作のため、まずは「紅桜篇」「真選組動乱篇」など、長篇エピソードごとに読んでみてもいいだろう。個人的に疲れを取りたいときは、慰安旅行(実際は将軍の警護)でスキーに出かけた武装警察「真選組」が、万事屋や攘夷志士・桂小太郎と出くわしてバカ騒ぎを繰り広げるエピソード(40巻収録)をおすすめしたい。
屈指の人気キャラ・土方と真選組が活躍する「バラガキ扁」が映画に
ちなみに「銀魂20周年プロジェクト」の一環として真選組が活躍する人気エピソードが、TV放送版におまけ映像を加え、『銀魂オンシアター2D バラガキ篇』として、2023年11月10日全国の劇場にて3週間限定イベント上映されていた。
「バラガキ篇」は、真選組で鬼の副長と恐れられる土方十四郎のルーツに迫る長篇で、原作第42巻に収録。己にも隊士にも厳しい土方だが、似た者同士の銀時と顔を合わせると、なぜか小中学生レベルのケンカばかり始めてしまう。おまけに極度のマヨラーで、マヨネーズが絡むとキャラクターが崩壊。若き日の尖った土方は「柳生扁」でも描かれたが、バラガキ扁では土方の出生の秘密や、荒んだ生活を送るようになった経緯まで、人物像により深く迫る長篇となっているので、ファンにはぜひおすすめしたい。
ストーリーは、サングラスに髭面、ラッパー気取りのチャラついた若者・佐々木鉄之助が真選組にやって来たことから始まる。名門佐々木家の出身である鉄之助を簡単に斬り捨てるわけにもいかず、イラつきながらも面倒を見ていた土方だが、ある日ふたりは警察内のエリートを集めた「見廻組」局長・佐々木異三郎と出くわす。実は異三郎は、鉄之助の義理の兄。しかし、義弟に一切の情はなく、「落ちこぼれ」「妾の子」だと蔑んでいた。土方は鉄之助をかばって異三郎にケンカを売り、一触即発の事態に陥るのだった。
実は土方自身も正妻の子ではなく、居場所がない想いを抱えた時期があった。出会った当初の土方は毎日ケンカ三昧で、「近づき触れれば棘が刺さるような手のつけられない暴れん坊」=「バラガキ」だったと、真選組局長・近藤は鉄之助に語る。土方が自身と似た境遇だと知った鉄之助は改心し、真選組の業務や鍛錬に必死でくらいつく。だが、その矢先、攘夷浪士グループ「知恵空党」(チェケラとう)に誘拐されてしまう。鉄之助をエサに、真選組と見廻組、警察の両組織を潰そうと考える知恵空党。この機に、邪魔な鉄之助と真選組を一掃しようと画策する異三郎。そして人質である鉄之助を救いに来た真選組。三者三様の思惑が入り乱れての乱戦が勃発する。
「鬼」と呼ばれる土方と、「怪物」と呼ばれる異三郎。このキワモノ対決も見物だが、新選組最強とうたされるドSキャラ・沖田VS見廻組副長・今井信女の真剣勝負も白熱する。実は信女は、暗殺組織の生え抜きだった過去を持つ。その信女と互角に渡り合い、「私と同じ 人殺しの目」と言わしめる沖田の実力も相当なもの。息もつかせない壮絶な斬り合いが続いたかと思いきや、閑話休題、途中で「ドSバッティングセンター」などのギャグシーンが挟まるのも『銀魂』らしさ。ビル一棟まるごと破壊しての幕引きは、アニメではかなりの迫力だった。
主人公の銀時はというと、鉄之助と出合って早々路上でラップバトルを展開した後、公務執行妨害で異三郎に逮捕される羽目に。しかも成り行きで、銀時は異三郎の指示のもと、「知恵空党」に潜入していた……。図らずも新選組の危機に巻き込まれてしまった銀時は、どう動くのか。結末は、ぜひ原作や映画で見届けてほしい。
小栗旬、菅田将暉、橋本環奈、吉沢亮――豪華俳優が集った伝説的実写版
『銀魂』は幾度もわたるTVアニメ化、劇場版アニメ化を経て、2度の実写映画化も果たし大ヒット。銀時を演じたのは、昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の好演が記憶に新しい小栗旬。『鎌倉殿~』では徐々にダークサイドに堕ちていく北条義時を演じ話題を呼んだが、『銀魂』では全力で振り切ったコメディとアクションで魅せてくれる。映画『ミステリと言う勿れ』(2023年)が大ヒット中のカメレオン俳優・菅田将暉は、オーラを封じ「メガネが本体」と揶揄される地味キャラ・新八役で怒涛のツッコミを炸裂させた。ゲロを吐く、鼻をほじるなど従来のヒロイン像を覆すような美少女・神楽を体当たりで演じたのは、NHK朝ドラ「おむすび」主演も予定されている橋本環奈。朝ドラ『なつぞら』や映画『キングダム』シリーズ出演を経て、『青天を衝け』で大河ドラマ主演を果たした吉沢亮も沖田役で出演。他にも、長澤まさみ、堂本剛、岡田将生、柳楽優弥……あまたの人気俳優が集まった、滅多に見られない豪華な顔ぶれだった。
実は筆者は、予備知識なく観た実写版が強烈に面白かったので原作を読み出し、まんまとハマった組。実写版を観た後で原作を読むと、「よくここまで全力で漫画のノリを再現したものだ」と、制作陣と出演者陣に舌を巻いた。実写映画オリジナルのオマージュも多数あり、そのバリエーションの豊富さと詰め込み具合に感心する。第1弾では『カウントダウンTV』(TBS系列)や『風の谷のナウシカ』、第2弾では『エヴァンゲリオン』『となりのトトロ』『踊る大捜査線』(フジテレビ系列)……など多数。とにかく、何も考えずに笑いたいときに、無性に実写『銀魂』が観たくなる。
ふと思うのは、日本史を覚えているときに『銀魂』を読んでいたら、確実にテストで間違えてしまいそうだということ。現に「真選組」と入力した直後は、史実の表記「新選組」が変換候補にやたらと上がってきて、何度か惑わされてしまった。学生の皆様は、どうか記憶違いにご注意を。時に歴史の偉人すら記憶から押しのけてしまう、大きなインパクトと存在感。そんな魅力があるからこそ、『銀魂』はいつまでも不滅なのだろう。
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