『ケンシロウによろしく』-「あいつはもう‥死んでいる」『北斗の拳』ケンシロウを目指した男の“復讐”とは

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ケンシロウによろしく
『ケンシロウによろしく』(ジャスミン・ギュ/講談社)
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『北斗の拳』の北斗神拳を、憎き敵を暗殺するために本気で体得してみたら

「『マッドマックス2』の世界に、救世主としてブルース・リーが舞い降りたら」。

マンガ『北斗の拳』について、「影響を受けた」「モデルにした」などの文脈で挙げられる作品や人物からその内容を説明するならば、恐らくこう書けば一番の勘どころを押さえることになるだろう。

読者がわざわざ指摘せずとも、『北斗の拳』原作者の武論尊、作画担当者の原哲夫ともに、自ら折に触れて明かしているアイデアの源泉である。

そして、そんな「『マッドマックス2』とブルース・リーにインスパイアされた」とでも言うべき『北斗の拳』も、2021年時点で生誕38年を数える作品となった。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が2015年の公開時、若年層を中心に「『北斗の拳』に似ている」と騒がれていた“逆転現象”は、ネットユーザーならば記憶に新しいはず。また、ネットスラングの「世紀末(状態)」や「(主に福岡県を指す)修羅の国」などは、言わずもがな“『北斗の拳』的なアレ”としてすっかり定着してしまっている。

『北斗の拳』は、かつての「影響を受けた」側から、もはや「影響を与える」側となって久しいのだ。

『ケンシロウによろしく』も、そんな立ち位置となった「『北斗の拳』にインスパイアされた」作品のひとつと言っていいだろう。

「『北斗の拳』の北斗神拳を、憎き敵を暗殺するために本気で体得してみたら」。

本作はそんな、「その発想はあったけどなかった」とでもツッコミたくなるような主人公を据えたギャグコメディである。

「お前はもう死んでいる‥‥‥全然死なねーじゃん‥‥」そして凄腕マッサージ師の道へ

「あいつ‥絶対殺す‥」。10歳のころ、唯一の家族だった母親に捨てられた沼倉孝一は、浮気相手として彼女を奪っていったヤクザの木村への復讐を決意した。

孝一はその手段として、「ツボを圧すだけで人を殺せる」北斗神拳を体得することを決め、『北斗の拳』を熟読しながらトレーニングにまい進していく。

そして10年後。ついにケンシロウのような体と技を手に入れた孝一は、満を持して木村に襲撃を仕掛けるが、失敗してしまう。

どう見ても「“ケンシロウになりきって、北斗神拳でツボを圧して相手を殺すこと”にこだわった」のがその原因だったが、孝一が考えたのは「『北斗の拳』だけじゃ正確なツボがわからない」ということだった。

そこで、さらに専門的なツボの勉強を始めた孝一は、あわせて人体解剖学を研究しつつ、骨と筋肉の構造、世界各国のツボ圧し技術、相手を混乱させるための心理学なども習得していく。

やがて努力の末に、孝一は晴れて国家試験に合格。「沼倉マッサージ」を開業し、史上最強の凄腕マッサージ師としてその腕を振るうようになった(後のエピソードから、彼はこの時点で40歳である)……というのが第1話の展開だ。意味が分かるようで分からない。

著:ジャスミン・ギュ
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『Back Street Girls』よろしくの出オチ。手段が目的化する“ケンシロウぶり”が面白い

……完全に“出オチ”なのだが、作者はあの『Back Street Girls』のジャスミン・ギュである。

『Back Street Girls』は、「暴力団の若手3人組が、ヘマの落とし前として性転換と全身整形をしてアイドルデビュー。すると人気になってしまい……」というやはり“出オチ”の設定だが、なんと144話まで続いたうえ、TVアニメ化に実写映画化・ドラマ化も果たした。

本作もツカミ以降もしっかり面白いので、そこは作者の“作風”である唯一無二のセンスを信じて読み進めてほしい。

元ネタ同様、「極限の怒りと哀しみ」から北斗神拳を極めた(?)孝一だが、本人はボケているつもりが無い彼の面白さは、ただひたすらに目的と手段を逆転させていくさまにある。

かつて、オーディオ評論家の長岡鉄男は「手段が目的化することを趣味という」と言ったが、孝一の“ケンシロウぶり”はまさにそれだろう。彼の復讐に燃える心は、人々を幸せにすることで昇華されていく。感心させられつつ(作中に登場するツボや施術は実在するもので、その詳しさもギャグとなっている)、ついつい笑ってしまう“極めぶり”なのだ。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の公開時、武論尊は同映画と『北斗の拳』を念頭に置いて「ヒーローは、絶望や荒廃の中からしか生まれない」と寄せていた。

孝一も(家庭環境的な、精神的な)絶望や荒廃の中から自らを救うべく救世主となったが、その暗殺拳(という名のツボ圧し技術)を振るった先に待ち受けているのは、この様子だと血みどろの終止符……にはならないはずだ、きっと。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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