「もっとハードル高いイメージあったのに」いざ、“選ばれし大人しか入れない場所”へ
「……流石に入りづらいぞ。女一人でラブホは……」。同人作家の待合茶耶は、東京都N駅最寄りのラブホテル前でウロウロする不審者と化していた。「彼氏さん待ちですか?」。するとそんな茶耶に、ピンク色の長い髪をたたえた、女性らしき美しい人物が声をかけてきた。
茶耶が同人誌の資料としてラブホテルをロケハンしたいこと、しかし一人ではハードルが高いことをしどろもどろに説明すると、その人物はあっけらかんと「それじゃあ一緒に行きます?」。こうして茶耶は、流されるまま人生初のラブホテルへ足を踏み入れることに。
ある日知ったその正体……“謎のお城”は「気軽にいける大人のあそび場」
「あの“謎のお城”はなんだろう」。いきなり身の上話だが、筆者は“ほどよく都会でほどよく田舎”な九州の某県出身で、母方の実家がその田舎寄りの某市にある。この某市、全体的な土地柄としてはベッドタウンといった趣なのだが、市の北外れの川沿いには工場が立ち並んでおり、その北端には……不釣り合いな“謎のお城”が乱立する一角があるのだ。
幼いころ、帰省するたび気になったこの“謎のお城”エリアだが、車で横を通り過ぎるたびにそこから目を背ける様子の両親や祖父母にその正体を聞くことは、子ども心になんとなく憚られていた。しかしやがて、身も心も多少なり汚れてきたころに、自ずと気付く時期が訪れた。“謎のお城”はラブホテルで、あの一角はいわゆるラブホテル街である、と。
……遅かれ早かれ、大人になった人々がその正体に気付く“謎のお城”=ラブホテル。主に大人同士が愛を深める場所である、とは書くまでもないことだが、その一方で近年は“非日常を演出する空間”であることを生かし、パーティや女子会などに向けたサービスを打ち出す店舗も増えているそうだ。『趣味のラブホテル』は、日本各地に実在する個性的なラブホテルを、本来の用途ではなくそういったカジュアルな視点から取り上げるマンガだ。
ハイウェイ、世界旅行、銀河鉄道、ナイトプール……ロマン溢れる魅惑の異空間
作中で紹介されるラブホテルは、第1巻だけでも“オープンカー”のベッドがあったり、部屋ごとに世界各国のモチーフが楽しめたり、バスルームに“銀河鉄道”を呼び出せたり、立派なナイトプールがあったり……とバラエティに富む。茶耶と、彼女を誘った人物……男女両性を備える天使のカシオペアによるファンタジーな“友達以上恋人未満”具合を追いつつ、題材らしからぬ爽やかさで“大人のあそび場”の楽しみ方を知ることができるのだ。
また、各エピソードの終わりには「今日のラブホテル」として、作中で描かれたラブホテルを(具体的な店舗名だけはぼかしつつ、調べれば分かるように)掘り下げるコーナーがあり、さらに「初めてのラブホテル」など実用的? なおまけエピソードも。全3巻と手に取りやすいラブホテル探訪記。「あまりこなれていても……」の一方で、「全く知らないのも……」な、絶妙に大人の知識欲が刺激されるその異空間の魅力を、本作で覗いてみては。