現代のモラトリアム同棲を経て「本当の幸せとは?」を見つめ直す『今夜すきやきだよ』

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『今夜すきやきだよ』(谷口菜津子/新潮社)

結婚に対して正反対の考えを持つアラサー女子二人の同居生活を通じ、「幸福な結婚ってなんだろう……?」と考えさせられる漫画『今夜すきやきだよ』。作者の谷口菜津子は、以前紹介した『教室の片隅で青春がはじまる』(KADOKAWA)と本作で、「第26回 手塚治虫文化賞 新生賞」を受賞。「現代のモラトリアム同棲」を描いているとも言える本作を通じ、既存の価値観に縛られない「本当の幸せ」について考えてみたい。

目次

「理想の結婚相手が見つかるまでの間、とりあえず私と結婚しようよ」

付き合っている彼氏と結婚したいが、家事がまったくできずに彼氏からダメ出しをされている敏腕内装デザイナーのあいこと、家事は得意だが、世の中の結婚や恋愛観にピンときていない絵本作家の卵のともこ。そんなタイプの異なるアラサー女子二人が、「理想の結婚相手が見つかるまでの間、とりあえず私と結婚しようよ」というともこの提案をきっかけに、それぞれに足りない部分を補う形でシェア生活をし始める。だが、あいこが恋人からプロポーズされてしまい、理想的に見えた二人の同棲生活もついに終わりを迎える……かと思われたが、「え!? そういう選択もアリ?」と、目からウロコの意外な展開が待ち受ける本作。

友人とのシェア生活にあたっては、「家賃は折半したり、部屋の広さによって負担額を変えたりしながらも、家事は平等に分担する」というのが鉄則だ。「やれるときにやれるほうがやる」といったあいまいな分担だと、結局はどちらか一方が不満を貯めることになり、上手くいかなくなることが目に見えているからだ(ちなみに、過去にシェア生活をしていた筆者の経験から言うと、不満に思うことがあっても同居人数が三人以上の場合は“犯人”が特定できないことが多く、「まぁいっか」と諦めモードになって、意外と長続きする)。

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ルームシェアの鉄則であるはずの「均等・平等」を覆す新たな同棲生活の提案

だが、『今夜すきやきだよ』が既存の漫画と違って新しいのは、「家事全般を賄う専業主婦」と、「外でバリバリ稼いで生活費を負担する夫」のような役割分担が、世の中的には「結婚適齢期」と言われるアラサーの、同性愛者ではない女性二人の間で、特にこれといった契約を交わすわけでもなく、互いの理想的な形で成り立っているというところにある。

「経済力のあるあいこが、友人のともこを家政婦がわりにして養っているわけではない」というのも本作の大きなポイントだが、ともこが手間暇かけてつくる料理を感動して食べ、綺麗に整えられた部屋に感謝しながらも、あいこは自分自身の中にある「好きな彼氏と結婚したい」という思いを否定しない。そして「結婚」という現実を前に一度は苦手な家事とも向き合いながら、「夫婦別姓や家事の外注に対する価値観の違い」による婚約者とのすれ違いを経て、再び自らの生き方を見つめ直していく。

一方のともこは、家事や料理といった自分が得意なことをやっているだけでも誰かに感謝されたり、お金のことを考えずに好きな仕事に取り組めたりと、自分にとっては利点しかないあいことの同居生活が、このままずっと続けばいいのに……と心の中で願っている。

人は何かを手に入れたいとき、本当に他の何かを諦めなくてはならないのか――

世の中には「何かを手に入れたいと思ったら、他の何かを諦めなくてはならない」ことの方が多い気がするが、実はそれも一般的な価値観に縛られているにすぎないのかもしれない。一旦それを全部取っ払ってフラットな状態で考えてみたときに、たとえそれが妥協策や折衷案だと周囲から揶揄されるような解決方法だったとしても、当事者たちが納得してさえいれば、結果的にすべて丸く収まるのではないか。そんな目からウロコが落ちるような実に鮮やかな提案で読者の頭をぶん殴るようなところに、本作の面白さがある気がしてならない。

結婚に限らず、「こんなことはしたらいけないはずだ」という思い込みこそが、本当の幸せを遠ざけているのかもしれないと気づかせてくれる『今夜すきやきだよ』。あいこととともこがどんな選択をしたのか気になる人には、ぜひこの漫画を手に取ってみてほしい。

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出演:蓮佛美沙子, トリンドル玲奈, 鈴木仁, 三河悠冴, 紺野ぶるま 脚本:山西竜矢, 監督:太田良  制作:テレビ東京
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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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