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“山ガール”と呼ばれたくない「単独登山女子」がユルめに紡ぐ登山漫画『山と食欲と私』

『山と食欲と私』(信濃川日出雄/新潮社)

いわゆる“山ガール”な「単独登山女子」(自称)の山行を、日常生活の想いや悩みとリンクさせながら描く登山漫画『山と食欲と私』。作中に登場する“山ご飯”も魅力で、登山初心者はもちろん、これから山に登ってみたいと思っている方にもお勧めな作品です。

27歳OLの主人公は自称「単独登山女子」

主人公・日々野鮎美は、“山ガール”と呼ばれたくない自称「単独登山女子」。 “一人山行”でのおいしい“山ご飯”をこよなく愛する、マイペースな27歳・OLです。

ヒロインの名前を「日々の歩み」と読み解き、物語で描かれる彼女自身の(地道な)成長が、累計発行部数170万部突破の人気作を生み出したとも。

もともと登山にはさほど興味がなかったものの、たまたまおいしい“山ご飯”を知ったことで、登山の楽しさに目覚めた鮎美。その背景には、一人暮らしOLの悲哀や虚しさ、自由気ままなライフスタイルなど、リアルな日常も見え隠れし……。

物語のベースがショートコメディなので重苦しくなく、「うんうん」と納得しながら読んでしまう方も少なくないのでは?

個性が重視される昨今の漫画界では、作者から発せられる一方的なメッセージ性とともに、いつの間にか読者が置いてきぼりになる作品も珍しくありません。

でも、本作品は読者と同じ目線で描かれています。その親しみやすく優しい作風には、誰もが共感しやすいでしょう。

お手軽な“山ご飯”も魅力な登山あるある物語

タイトルや紹介文からグルメ系コミックのイメージも抱かれそうですが、「山ご飯グルメの指南書」的な捉え方だと、ちょっと拍子抜けするかもしれません。

アウトドアブームに乗って出版された“山ご飯&キャンプ飯”本の多くは、家で念入りな準備を済ませた山レシピだったりします。

本作でも同様な“山ご飯”が登場するものの、その多くは「念願の縦走(尾根を伝って複数の山を渡り歩く登山方法)を始める1日目だけの贅沢」といった特別メニュー。基本は「簡単&お手軽に楽しめる山ご飯」なので、面倒な準備をいちいちやってらんないよ……と思われる方も納得なのでは?

コミックス既刊14巻・連載約170話(2022年1月現在)以上に及ぶ物語の大半は、山ご飯の要素を盛り込みつつ、作者の経験を活かした“登山あるある”物語。登山道の歩き方、疲れない登り方、やってはいけない歩き方といったハウツーから、登山時のルールやマナー、テン場(山中のテント場)でのテント設営方法、山小屋の実情など登山に関するノウハウが、様々な登場人物を通して描かれます。

と同時に、各キャラクターの温かさや親近感が、読みやすく飽きさせない作品の持ち味を生み出しているともいえます。

多彩な切り口で描かれるリアルな山情景

山で見かける人々やソロ登山者の心情など、情景描写&人間洞察の鋭さは、趣味が登山という作者ならではのもの。そのリアルさから、登山・アウトドア専門誌で取り上げられる機会が多いこともうなずけます。

それだけに、ときにはタブー視されがちなテーマが取り上げられることも。「単独登山女子」につきまとう中高年男性登山者、コミュニケーション能力が欠如したワガママ登山者、山好きの信頼や良心を裏切る窃盗犯罪……。

ともすれば重苦しくなりがちなテーマですが、本作らしいコミカルかつ軽妙・多彩な切り口で、楽しみながら読み進めることができます。奇をてらわず、フツーの登山をありのままに描く作風だからこそ、幅広い層から受け入れられているのでは。

ちなみに、筆者が好きなエピソード《東北ギンギン山巡り編》では、「かけた時間が旅の本質」「悩んだら北かな」といった名言(?)も。説教臭くないコミカルなシチュエーションで、メッセージを素直に受け止めることができます。

主人公が山を巡る全国各地の旅では、ローカルグルメや名産品なども数多く登場します。山好きな方はもちろん、旅好きな方も、楽しく読み進められるはずですよ。

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