00年代を代表するラノベ&アニメとして、一世を風靡した人気コンテンツ『とらドラ!』。原作小説やアニメは10年以上前に完結していますが、コミック(コミカライズ版)は現在も刊行継続中。そのコミックもクライマックス間近なことから、改めて作品の魅力を探ってみると……。
涼宮ハルヒシリーズや高橋留美子作品にも相通じる学園ドラマ
『とらドラ!』の基本設定を一言で表するなら、ツンデレ系・学園恋愛ドラマ。かつて大流行した“ラブコメ”の延長線上にありながら、ツンデレ要素や複雑な恋愛模様を加味した物語は、学園ドラマの新時代を感じさせる斬新な作風に。
原作&アニメの大ヒットは2008〜2009年ですが、現在も違和感なく読める作風は、時代の流れを先取りするものだったといえそうです。
物語の主人公は、目つきが悪く超ヤンキーと誤解されがちな男子・高須竜児と、“手乗りタイガー”こと同級生の凶暴ツンデレ女子・逢坂大河。彼女は学園トップクラスの美少女ながら、その特異な性格から孤高の存在になりがちで……。
大河と仲がいい“みのりん”こと櫛枝実乃梨、大河とは犬猿の仲でモデルのアイドル系女子・川嶋亜美といったサブキャラも魅力的な基本設定は、00年代前半に大ブームを巻き起こした『涼宮ハルヒの憂鬱』(原作・谷川流、キャラクターデザイン・いとうのいぢ/KADOKAWA)とも相通じるものが。実は真面目&几帳面で面倒見もいい素敵男子が、(行動や言動とは裏腹に)他人を思いやる優しい女のコに振り回されていく様は、ハルヒだけでなく、高橋留美子作品(『うる星やつら』(小学館)など)も彷彿とさせます。
こうしたキャラクター設定だけをみても、ラブコメ〜学園系ラノベに繋がる魅力要素を凝縮した、ひとつの完成形が『とらドラ!』だといえるでしょう。
正攻法で魅せる“不器用な”青春群像劇
ちなみに、コミカライズ版の世界観はアニメより原作小説寄り。
濃密なドラマが描かれたアニメ版は、後にアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を作り上げる制作陣が試行錯誤しつつ完成させたもの。一方、コミカライズ版は、静止画で原作の魅力を表現するため、コミカルな要素をあえて強調しているとも。万人受けを意識したアニメ版と、クセの強さで好き嫌いが分かれそうな原作小説を比較すれば、コミカライズ版の立ち位置も納得できるのでは。
ただ、登場する各キャラクターの魅力や、彼&彼女たちの間で迷走〜進展していく恋愛模様の面白さは、どちらにも共通したもの。そのキーワードは、やはり“不器用”でしょう。
どのキャラクターも妙に大人びた一面を持ちながらも、恋愛に関しては歯がゆくなるほど不器用なわけで。大人びた高校生と、精神的に未熟な高校生。この対比がリアルに描かれる作風は、まさに青春の甘酸っぱさ。使い古されたイメージかもしれませんが、“青春群像”を正攻法で魅せてくれる様は、やはり嬉しい(恥ずかしい?)ものです。
素直になれない”恋愛に特化した潔さ
が、それ以上のモノを求めようとすれば、空振りに終わるでしょう。全10巻の原作小説、全25話のアニメとも、全編を通して「学園恋愛ドラマ」しか描かれないので。
登場人物の家族関係も掘り下げられますが、あくまでそれは、恋愛劇を進展させるためのファクター。竜児、大河、実乃梨、亜美が織りなす“誰も素直になれない”恋愛模様を軸に、長い物語が進んでいきます。
ファンタジーや架空要素が皆無な潔さ、ブレない世界観、進みそうで進まない恋愛劇を飽きさせない演出は、『とらドラ!』ならではの魅力といえるでしょう。コミカライズで版はアニメでカットされた心理描写も忠実に描かれるため、『とらドラ!』らしさをわかりやすく楽しめるはず。
漫画として重要な画力も、作品ファンの期待を裏切らないもの。当初こそ若干の不安定さが感じられたものの、巻を重ねるごとにクオリティを上げています。
唯一の問題は、その刊行間隔。当初の“1年1巻”から、6巻以降は“2年1巻”ペースに……。さすがに間隔が長すぎるものの、最新刊の第10巻(2021年11月)では、ようやくクライマックスに突入。さまざまなフラグが「そういうことだったのか!」とわかってくるので、新たに読み始めるには良いタイミングですよ。