“あんなにがんばったのに”から腐るか、這い上がるか。ほろ苦い始まりから下剋上へ……『4軍くん(仮)』

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『4軍くん(仮)』(原作・森高夕次、漫画・末広光/集英社)
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“都立の星”だった高校球児から「トロク」名門野球部の4軍選手に……

自分の“野球偏差値”が知りたい――! 「野球上手だね」「将来は野球選手かな~」。子どもの頃から大人たちにもてはやされ、進学した文武両道の都立高では走攻守に光るものを持つ捕手として鳴らした高校球児・荻島航平は、“東東京”でベスト4という“現実”を知り、3年の夏を終えた。「甲子園組」との再戦を期す航平は次なる目標を「トロク」(都心6大学リーグ)に定め、猛勉強の末に一番試合に出られそうだと踏んだリーグの一角・池袋大学へと合格する。

“東東京”ベスト4に導いた“都立の星”にして、「トロク」に属する名門大学に現役合格。おまけに受験勉強時にできた学年一の美女の彼女持ちと、航平は公私ともに充実した状態で池袋大野球部の門を叩く。そこにいたのは新入部員だけでも70人ほど。中にはスポーツ特待のエリート、甲子園で実績を残した選手らも混じる。「でもこのレベルなら俺は決して負けてない」。自信を持っていた航平だったが、命じられたのはまさかの「4軍」行きだった。

著:森高夕次, 著:末広光
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「おれの人生イケるぞ!」という自惚れ――“4軍”から目指すべきものとは

「おれの人生イケるぞ!」。第1話における航平のセリフだが、彼のように野球ができるでも、勉強ができるでも、何でもよい。人生のある場面、ある瞬間に秀でた自分にスポットライトが当たったその時、似たような考えを浮かべたことがある人は少なくないだろう。しかし、悲しきかな。上には必ず上がいる。自分の“偏差値”を見誤っていたことに気付く時間は、誰にでも訪れる。『4軍くん(仮)』は、鼻っ柱を折られた航平にあるいは共感し、あるいは苦笑いをしながら読み始めることになる、ほろ苦い幕開けの野球マンガである。

原作者は『グラゼニ』シリーズ(講談社)の森高夕次(漫画家名・コージィ城倉)。決して一流ではないサイドスロー左腕の主人公が、厳しい現実を見据えて“グラウンドには銭が埋まっている”を胸にプロ球界を生き抜く同作が好きならば、世知辛い本作もきっとツボのはず。始まりが始まりだけに、航平が大学野球の選手として華やかなプレーを見せる場面は先になる。なにせ彼は「1年の4軍」。池袋大野球部には、「学年の階級」と「1軍~4軍の階級」を組み合わせたヒエラルキーが存在する。航平はグラウンドでは、整備や球拾いからしか出番がないのだ。

では、野球以外で何を描くのかといえば。第1巻では「大学野球マンガ」ではなく、いわば「大学野球“部”マンガ」に振り切ったエピソードも多めで進むのが本作の面白いところだろう。本分の野球で輝けない4軍の先輩が何をしているのかといえば、“名門・池袋大野球部所属”の名刺を活かして合コンや就活に精を出していたりするのだ。客観的には、それはそれで“上手い”立ち回りだと感じられもする。航平はあくまでも野球にかけており、下剋上を期して大学野球生活を始めるものの……。その立ち振る舞いも見どころだ。

「現実を知ってからが本当のスタート」と思いたい……その下剋上に夢を託す

航平が務めるキャッチャーといえば、プロでは有名どころでテスト生から這い上がった野村克也に、屈辱の指名漏れを経験した古田敦也、贔屓のソフトバンクホークスには育成出身の甲斐拓也がいたりと、野球ファンとしては成り上がりからの大成を期待するポジションだったりする。第1巻は、航平が4軍の先輩になし崩し的に就活の世話を焼いてもらったことがきっかけで、今後の大学野球生活に暗雲が立ち込めるところで終わってしまう。これから話がどう転ぶとしても、航平が腐るところは見たくない……。何事も、現実を知ってからが本当のスタートではなかろうか。一読者としてひそかに夢を託している。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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