『メダリスト』フィギュアスケートの魅力に満ちた熱すぎる人間ドラマ

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メダリスト
『メダリスト』(つるまいかだ/講談社)

フィギュアスケート界で夢に見放されかけていた少女と、かつて夢破れた青年がタッグを組み、誰より強い“リンクへの執念”で世界の頂点を目指す物語『メダリスト』。ユーザー投票で決定する「次にくるマンガ大賞2022」コミックス部門で第1位を受賞した力強い作風には、覚悟しておかないと圧倒されますよ!?

目次

ダメな自分でも“できる”と信じられる私でいたい

物語の舞台は、フィギュアスケートの強豪クラブがしのぎを削る愛知県。将来のオリンピック選手候補が目白押しなジュニアスケート界で伸び悩む、結束いのり(11歳)がヒロインです。

憧れだった姉はジュニアスケート界の新星でしたが、ジャンプ練習中の骨折で選手生命を断念。その辛い姿を目の当たりにした母は、いのりがフィギュアスケートを続けることに反対で……。

いのり自身も、身体は同級生より小さく、勉強や普段の生活で何をしてもダメな“何もない子”だったネガティブ少女。頑張りたいのに頑張れない、自分の中での劣等感と葛藤に耐えきれず、すぐに泣いてしまうような子です。

でも、彼女はフィギュアスケートを通じ、急成長していきます。

「自分のダメなところ 今 反省するのやめなきゃ

「ダメな自分を大嫌いなほどよく知ってるけど 私も私ができると強く信じたい 信じられる私でいたい」

彼女が見せる力強い表情と演技には、思わず圧倒されてしまうはず。

一方で、フライングシットスピン+ブロークンレッグ+2回転(ダブル)サルコウ+2回転ループという高難易度コンビネーション技に対する感想は、2回転が2つも=いちごが2つも載っている“DXいちごたい焼き”だと「ほわわん……」とする年相応な面も。

厳しさ+力強さと、にこやかで豊かな表情の描き分けも巧みで、気づけばいのりの魅力に惹きつけられているのです。

著:つるまいかだ
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小学生で将来が決まるフィギュアスケート界

そんな彼女の前に現れたのは、練習環境もままならず自己流でフィギュアスケートを続けたものの、シングルで挫折し、アイスダンスに転向した過去を持つコーチ・司。まともに練習させてもらえなかったこともあり、11歳でバッジテスト初級すら未受験ないのりに、司は自分の過去と相通じるものを感じ……。

フィギュアスケート・シングルにはクラス分けがあり、日本スケート連盟のバッジテストに合格すると、上位クラスに昇格できます。クラス分けは初級~8級まであり、国内の公式戦だと、ノービスB大会で3級、ノービスAで4級、ジュニアで6級、シニアで7級が必要に。オリンピック出場権は、シニア(15歳以上/2023-24シーズンは16歳、2024-2025シーズン以降は17歳に引き上げ)の選手たちが競います。

フィギュアスケート(特に女子)で上位を目指すコたちは、4~5歳でレッスンを始め、小学生時代はノービス大会で競うのが当たり前。小学5年生で初級にもなっていないいのりは異端で、その時点で将来がないと見なされる……。

フィギュアスケートがそんな厳しい世界だとは、本作で初めて知りました。大会の採点方式など素人には「?」な部分も、物語を通してわかりやすく解説されますよ。

熱い物語を夢中で読みふけるうち、自然と知識が身に付いていく演出には、作者も苦心されているのでは。そうした創意工夫や、“フィギュアスケートの魅力を伝えたい心”が熱く伝わってくる作風は、本作の大きな魅力でもあります。

スポ根とは本質から異なる熱き想いの物語

粗削りながらパワフルで、スピード感と力強さがみなぎる作画からも感じられるように、本作品の“熱さ”には半端ないものが。ただ、いわゆる“スポ根”イメージとは、ちょっと違うものだったりも。

大会で最初のジャンプに失敗・転倒した少女は、

「この指先 この角度 1秒1秒に私の日々が詰まってる 雑になんてできない 先生と積み上げてきた1秒たちは 最後まで私が守るんだ」

と、諦めずに滑り切ります。もっとも自信がある技を持ってくる、最初のジャンプでの失敗は致命的。にもかかわらず、彼女たちは驚異的な精神力で立ち直っていく。その姿には、誰もが心を揺さぶられるはず。

筋肉が悲鳴を上げ、限界に達した手足をプルプルと震わせながらも、それを微塵も感じさせない滑り。華麗な演技に秘められた、過酷さと熱き想い。本作に登場する彼女たちの姿を通し、フィギュアスケートの見方が変わる方も多いのでは。

物語は練習と大会の連続で、学校生活や家庭の日常など、フィギュアスケート以外の要素は潔いほど排除されています。そのストイックさがまた、想いの熱さを増幅させるのでしょうか。日常生活の犠牲を描くことで“根性物語”化するスポ根とは、本質的に違うわけです。

見方を変えれば、フィギュアスケートに特化した物語進行だけで、これほど各キャラクターが生き生きと躍動する作風にも驚かされます。いのりのライバル少女たちが抱える複雑な想いは、物語の強烈なスパイスとして、読み手の心に突き刺さるでしょう。

競技でありながら、“演技”でもあるフィギュアスケートだからこそ、その想いに心が揺さぶられるのかもしれませんね。いのりと司の頂点を目指す道はまだまだ途上なので、今後の展開が楽しみな作品です。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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