1989年から1996年まで週刊少年サンデーで連載されていた『スプリガン』(原作・たかしげ宙、作画・皆川亮二)は、超古代文明の遺産を巡り、世界各国や組織が争う社会派SFアクション。第2作が2022年にNetflixにてアニメ化・配信され、2023年に地上波(TOKYO MX)でも放送されたことで、連載終了から20数年を経て再脚光を浴びている作品でもあります。
古代文明の科学遺産を巡る超SFアクション
物語の舞台は、架空の現代世界。古代科学文明の遺産が発見されたことで、世界各国・各組織のバランスが崩れ始めます。その科学文明は、世界の均衡を一変させるほど、異次元の力を持つもので……。
古代文明人のメッセージ「我々の遺産を悪しき者より守れ」に従い発足した特殊組織アーカムは、“オーパーツ”と呼ばれる遺産(技術)を守るため、S級エージェント“スプリガン”を送り出します。
こうした基本設定は、80年代末期~90年代にムーブメントを起こした、近未来型SFアクションの流れを汲むもの。特殊能力を持つヒーロー、ヒロインが登場するのもお約束で、本作ではスプリガンのひとり、御神苗優が主人公となります。
アーカムが開発した特殊戦闘スーツを身にまとい、サイボーグかと思わせるほどの戦闘能力を誇る彼ですが、素顔はフツーの高校生。いわゆる不良キャラではなく、憎めないクラスの人気者ながら、何かとハメを外してしまう問題児で……。
オーパーツを狙う組織と命がけの戦闘を繰り広げ、米軍秘密部隊など政治的な駆け引きも要求される裏舞台に足を突っ込みつつ、素顔はやんちゃな高校生。そのギャップが、物語の奥行きや懐を広げていきます。
80~90年代ラブコメのエッセンスも
優の破天荒キャラや面白おかしい学園ライフには、やはり80~90年代に一世を風靡した、ラブコメの影響が感じられます。
同じ高校生、それも名門女子高に通うお嬢様・染井芳乃がヒロイン的に絡むことで、物語が意外な展開を見せることもしばしば。遺跡荒らし(盗掘家)という裏の顔を持つ彼女は、オーパーツを巡る争いに巻き込まれ、優と行動を共にする機会が増えていきます。
何かとぶつかり、腐れ縁のような関係性を築く二人は、どこかラブストーリー的な香りも漂わせ……。それ以上の進展を明確に描かない奥ゆかしさ……というよりイライラさせられる展開も、さまざまな形のラブコメが誕生した時代背景でしょうか。
物語の本筋とは別ルートながら、そうした亜流ラブコメ的な観点から本作を斜め読みしても、面白いかもしれません。
緻密かつ力強い演出は今なお斬新
SFアクションの物語本筋は、テンポよく進んでいきます。濃密な背景を秘めたストーリーがジェットコースター的に展開し、読み手がついていけなくなることも珍しくないような……。が、そこを割り切って読み進めれば、後に「なるほど、そーゆーことか」と納得させられるのでご安心を。
作風は粗削りでも、フラグを立てまくるだけで回収しきれないような、雑さはない作品なので。流れに身を任せることが快感な、中毒性を持つ作品ともいえそうです。
先に粗削りと表現していますが、大胆なコマ割り、当時は斬新だった見開き作画の多用など、思い切った構成の裏返しでも。漫画史的に過渡期の作品だけに、様々なポイントを捉えることで、違った魅力が見えてくるかもしれません。
いっぽう、作り込みが半端ないストーリーに驚愕させられることも。
例えば強敵とのタフな戦闘に、「ドップラー効果」(音源や観測者が動いているとき、音の周波数が変化する現象)を持ち込む少年漫画など、そうそうあるものではないはず。子供騙し的に都合良すぎるネタではなく、なぜそうなるのか、なぜその効果が結果を導き出すのかが、違和感なく描かれるわけで。
また、物語随所に神話をモチーフとした題材が織り込まれるため、アクションの連続に飽きることもありません。
力強い作画と緻密な理論構成が共存する演出こそ、本作が未だに名作と呼ばれる所以ではないでしょうか。
さらには、嘆きや悲哀、煽りや睨みなど、ダークな人間性が露わになる表情も深みを増幅させます。こうした表情のタッチも、作者ならではの味わいかと。『ARMS』(原案協力・七月鏡一)『D-LIVE!!』(ともに小学館)、『ヘルハウンド』(講談社)と続く、皆川亮二作品らしさの源流を味わえることも、本作品の魅力でしょう。
(逆に、笑顔系の表情にはぎこちなさを感じさせますが……)
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