※ややネタバレあり
諦めない心と弛まぬ努力で道は確実に拓ける
主人公のアスタは“持たざる者”である。
魔法が全てであるクローバー王国において、生まれつき魔力を持たず、下民の暮らす恵外界と呼ばれる場所の教会で育つ。
どんなに努力しようとも、魔法は一切使えない。
それでもアスタは、努力を惜しまず、自らの境遇を呪うことなく、魔道士の頂点・魔法帝になるべく前進し続ける。
彼の成長譚は今を生きる私達にも通じ、「自らの人生は自らの手で切り拓く」、その尊さと難しさを教えてくれる。他人と比べ、他人のせいにして、卑屈になる――それがいかに馬鹿げているか、彼の生き方が示してくれるのである。
『ブラッククローバー』は、笑いあり、涙あり、熱い友情とほんのり恋愛要素も含んだ、若者の成長と冒険を描いた王道の少年漫画だ。
クローバー王国の最果てにあるハージ村の教会に捨てられた主人公・アスタは、同日に捨てられたユノと共に兄弟のように育てられる。2人は「どっちが魔法帝になるか勝負だ」と約束を交わし、魔法帝になるべく鍛錬を積む。
15歳になり、魔力を高める魔導書(グリモワール)の授与式に臨んだふたり。才能溢れるユノは伝説とされる四つ葉の魔導書を授与されるも、アスタに授与されることはなかった。ユノの魔導書を奪おうとする盗賊に立ち向かうアスタは、初めて自分に一切の魔力がないことを知るのだった。
諦めかけたアスタだったが、ユノの「アスタは俺のライバルだ」との言葉に奮起。悪魔の棲むとされる反(アンチ)魔法の五つ葉の魔導書を手に入れる。半年後、9つの騎士団から成る、国を護る英雄・魔法騎士団への入団試験に挑み、ユノは最強と呼ばれる“金色の夜明け”、アスタは最低と呼ばれる“黒の暴牛”にそれぞれ入団し、互いの道を歩み始めるのだった。
決して「諦めない」強い精神が自分と周りを成長させる
“黒の暴牛”の一員となったアスタは、団員と共に暮らしながら、国を護るという任務をこなすこととなる。団員たちは皆個性的かつチャーミングで、各々に事情を抱えている。巻が進むにつれ彼らのストーリーが丁寧に描かれ、彼らもまた、アスタのように逆境に負けず自らの進むべき道を模索していることが分かってくる。
目には見えずとも、誰もが様々な問題を抱え、苦しみもがいている。それでも、より良い方を目指して前進すれば、必ず光は差す。時に仲間が手を差し伸べ、経験を重ねることで学んでいく。『ブラッククローバー』には、そんな希望が満ちている。困難の先にある希望が力強く描かれているのだ。
共に困難を乗り越え、協力し合うことで、団員たちは次第に結束し、信頼し合い、真の仲間へと成長する。
アスタとユノは互いに実績を重ね、名を挙げていく。そんな中、リヒトを頭首とする反クローバー王国を掲げるテロリスト集団・白夜の魔眼が現れ、クローバー王国は危機に瀕する。
長期に渡る白夜の魔眼との戦いの中で、2人は自らの限界を超え、新たな能力を身に付け、絶体絶命に追い込まれながらも成長を止めない。何があっても決して諦めず、決して挫けず、努力し、立ち向かわんとするアスタの姿に心打たれる。
本作には挫折や敗北の場面もしっかり描かれているのだが、勝利の印象が非常に色濃い。その要因は、アスタやユノをはじめとする登場人物たちの、死んでも諦めない、心は決して砕けない姿にこそあるのかもしれない。
困難に立ち向かうアスタの成長は、周りの成長をも促し、絆を深める。フィクションだからと侮ることなかれ。現実世界でも、アスタのような人物が1人でもいれば、世界は確実に変わるのだ。まずは自分がアスタになってみる――。アスタの精神を真似てみれば、周りの世界も僅かながら輝くかもしれない。
希望に満ちた王道ストーリーだからこそクセになる
『ブラッククローバー』は、“持たざる”少年の成長を描いたファンタジー冒険漫画である。細部まで細かく描かれた背景は、魔法王国という架空の世界をリアルに浮かび上がらせ、読者を異世界へと誘う。見た目も特徴も異なるキャラクターたちは誰もが魅力的で、自然と物語の世界へと引き込まれていく。彼らの豊かな表情は、セリフ以上に雄弁だ。また、世界観の構築が秀逸で、ストーリーのテンポも良く、読者をまるで飽きさせない。
『週刊少年ジャンプ』にて連載中で、最新刊となる34巻が2023年3月に発売された。累計発行部数は1,800万部を超える。
白夜の魔眼との戦いも、いよいよ佳境を迎えた。ユノの出生の秘密や新たなキャラクターの登場もあり、今後の展開からますます目が離せない。
彼らの戦いはどのような結末に至るのか。
誰のせいにも何のせいにもせず、自分をありのままに受け入れ、努力を続け、愛する人を守らんとするアスタの成長を、最後まで見守りたい。