“ゆるふわ”なゾンビ・サバイバルホラー…そんなジャンルがあるとすれば、この『がっこうぐらし!』は唯一無二の対象作品でしょう。賛否両論が巻き起こる不思議な世界観は、ある意味で問題作なのかもしれません。
萌え萌えな《きらら》ワールドが読者の踏み絵に?
ゾンビ作品といえば、その始まり方が概ね二通りあります。
・パニック世界で、主人公たちのサバイバルから物語が展開する
・何かがおかしい、何かが起きている…? 静かな始まりから、主人公と見る者が同じ目線で世界の変貌に気づかされる
前者は、もはやバイブルといえる映画『ゾンビ』や、同作品に影響を受けた多くの作品、コミック『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』など、ゾンビ作品の王道といえます。
逆に後者は、一風変わった演出を狙う作品にありがち。TVドラマ『ウォーキング・デッド』は、同パターンの亜流と考えて良いでしょう。
今回取り上げる『がっこうぐらし!』も、やはり後者。ヒロインとなる女子高生たちの“ゆるふわ”学園ライフが描かれる物語序盤は、連載掲載誌『まんがタイムきららフォワード』らしい、まさしく《きらら》ワールドなわけで。
でも、単行本では第1巻の終盤から、物語の雰囲気が一変します。読者は一気に、ゾンビが徘徊する世界へと引きずり込まれ……。このギャップに対応できるかどうかが作品評価の分かれ目だけに、コミックス第1巻が一種の踏み絵に!?
美少女JKがシャベルでゾンビの頭を叩き潰す日々
その後は少しずつ、ヒロインたちの置かれた状況が明らかに。
ゾンビが発生した世界で、生存可能なエリアは学校の校舎内だけ。彼女たちは学校での避難生活“がっこうぐらし”を部活化した《学園生活部》で、生存サバイバルの可能性を模索していきます。
ここでキーパーソンとなるのが、メインヒロインの由紀。学校での寝泊まり=部活を楽しむ彼女の天真爛漫さは、異常世界で体験した壮絶なトラウマの裏返し。現実を理解しようとせず、どこまでも遊び感覚な彼女の姿を通し、見えてくるものとは……。
と同時に、この演出が読者を苛つかせます。ヒロインの天然ぶりが物語のシュールさや展開を阻害し、一種独特な世界観を醸し出すわけで。
しかも、そこに多くの伏線が隠され……。苛つきながらも共感して読み進められるかどうかで、中盤以降の深みが大きく変わることになります。絶えず作者から試されながら物語が進んでいくという、良くも悪くも不親切な作品かもしれません。
しかも、キャラクターデザインは芳文社《きらら》系の、“ゆるふわ”可愛い女子ばかり。異常な体験で心に闇を秘めた彼女たちは、手に持ったシャベルでゾンビの頭を叩き潰し続けます。
あらゆる設定・演出がギャップと不親切さに満ちているにもかかわらず、なぜか予定調和的に読み進められてしまう作風は、ちょっとクセになるもの。どこまでがリアルで、どこからが夢(?)なのか、その世界観にようやく慣れてきたところで、物語は次のステップへ。そう、読者は再び突き放されるのです。
物語が発するメッセージ「自分たちはまだ生きている」とは
「人間のゾンビ化を防ぐワクチンが存在する!? この異常世界は、人為的なもの!?」
という新たなテーマに沿って、彼女たちは高校を“卒業”し、新たなサバイバルへと歩みを進めていきます。異常現象の要因は? 事態収拾のカギは? 様々な謎解き・フラグ回収とともに、ウイルスの変異などパンデミック要素が盛り込まれていく様は、あの『バイオハザード』シリーズを彷彿させます。
さらに、物語終盤は読み進むことが辛くなるほどタフな展開に。絶望しか抱けない状況で、疲弊していく彼女たち。当初の“ゆるふわ”感が完全に消失……したかと思わせたところで、希望の光が!?
物語の結末を描かず、未完のまま終わるパターンが多いゾンビ作品にあって、この『がっこうぐらし!』は理にかなった結末を迎えます。「お互いへの信頼こそ生き残る道」なのだと気づかされる収束は、ハッピーエンドといって良いかもしれません。
「自分たちはまだ生きている」
物語序盤から盛んに発せられるメッセージこそ、実は作品の本質を表すキーワード。可愛さ追求の芳文社《きらら》系では明らかに異色な『がっこうぐらし!』ですが、彼女たちの生き様に作者が描きたかった“可愛い”をイメージできれば、その魅力にどっぷりと浸れるはずですよ。