推しについて語り合う二人に年齢の壁はなし『メタモルフォーゼの縁側』

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『メタモルフォーゼの縁側』鶴谷香央理/KADOKAWA
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推しについて語り合う二人に年齢の壁はなし『メタモルフォーゼの縁側』

仕事柄、人気アイドルグループのメンバーを取材することもあるのだが、記事の反応を調べようとTwitterなどでエゴサーチしていて一番驚くのは、ファン同士の連帯だ。同じ対象を愛する者同士、年齢や性別、国籍すら軽々と超えて、あっという間に「共感」という名の魔法でつながれる。そしてこれはもちろん、アイドルファンだけに限った話ではない。「同好会」や「同人誌」という言葉があるように、「自分が好きな世界を誰かに伝えて、あわよくばその深い沼へと誘いこみ、その感動を無限に分かち合いたい!」という本能的な欲求が、きっと人間にはあらかじめ備わっている。さらにその興味の対象が狭く、人には少々言いづらいものであればあるほど、「同志」を見つけた時の喜びはひとしおだ。

著:鶴谷 香央理
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出逢うはずのなかった老女と女子高生を繋いだ1冊のBL

「このマンガがすごい!2019」オンナ編第1位に選ばれ話題となった鶴谷香央理の「メタモルフォーゼの縁側」も、そんな「同好の士」の間に流れる心地のよい連帯を「ジェネレーション」という切り口から、丁寧に描いた作品のひとつ。ザックリいうと、ある日町の本屋で「BL漫画」をたまたま手に取った老婦人が、その本屋でアルバイトをする女子高生と交流するようになり、「BL好きの先輩」である女子高生の手ほどきを受け、いつしかコミケに通うまでになる……というお話だ。

物語の主人公は、2年前に夫を亡くして一人暮らしとなり、自宅で書道教室を開く市野井雪、75歳。娘は外国人の夫と海外に暮らしていて、気が向いた時にふらりと帰国する程度。取り立てて孤独というわけでもないのだが、若いつもりでも「寄る年波には勝てぬ」と、自身の体力に不安を感じている。そんな雪の日常が一気に色づき始めるきっかけとなったのが、BL好きの孤独な17歳の女子高校生うららがアルバイトする本屋で、たまたま手にした一冊の「BL漫画」だった……というわけだ。

正直「おばあちゃんがBLを読むなんて……」といった偏見がなかったわけではないのだが、これを読むと「推しについて語り合う二人の間に、年齢の壁など一切関係ない。むしろその関係性は尊い」という、至極当然のことを正面から突き付けられ、アタマをガツンと殴られたような気分になる。

年齢差があるからこそ際立つ「相手を思いやることの大切さや難しさ」

「BL漫画」であることを知らずに「綺麗な絵ねぇ」と手に取る雪を目にして「おばあちゃんにはさすがにちょっと刺激が強すぎるのでは……?」などと余計な心配をしながらも、「あらあら……」などと言いつつページをめくり、たちまちBLの世界に夢中になっていく彼女の姿を前に、「いくつになっても新たな世界に興味を持てる感受性と柔軟性を保ち続けたい」と思わされるのは、きっと筆者だけではないだろう。

一方、自分のおすすめのBL漫画を「押し付けがましいと思われたらどうしよう……」「あの本が好きってことは、きっとこれも好きだよね。でも、これはもしかしたらちょっと趣味に合わないかもしれないな……」などと、あれこれ悩みながら雪のためにセレクトしてあげる、うららの甲斐甲斐しさを目にするにつけ、「おばあちゃんになっても、こんな友だちが出来たら楽しいだろうなぁ」と、なんともうらやましく感じてしまう。

「58歳差」という大きな足枷があるからこそ「相手を思いやることの大切さや難しさ」が際立ち、「人と人が交流することによって生まれる感情の素晴らしさ」を教えてくれる「メタモルフォーゼの縁側」。「同じものが好き」という感性で一度でも誰かと強固につながれた経験を持つ人は、たとえ孤独の果てまで行っても、きっと光の差す方へふたたび戻ってこられるはずだ。

著:鶴谷 香央理
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出演:芦田愛菜, 出演:宮本信子, 出演:高橋恭平, 出演:古川琴音, 出演:汐谷友希, Writer:岡田惠和, 監督:狩山俊輔, プロデュース:伊藤 響, プロデュース:河野英裕, プロデュース:谷戸 豊, プロデュース:大倉寛子
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映画『メタモルフォーゼの縁側』公式サイト

映画『メタモルフォーゼの縁側』予告

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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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