※ややネタバレあり
繰り返す死闘、痛く苦しい死…そのループの先に待つ運命とは
未知なる生物と戦争に対する恐ろしさ、死への恐怖、繰り返す苦しみ、
勝利の対価、人間を人間たらしめる愛――。
それら全てがたった2巻に凝縮された秀作がある。
人類のためという大義名分ではなく、人はなぜ戦い、なぜ強くなれるのか。
戦いや人間の本質とは何か、その答えがここにある。
『All You Need Is Kill』は、“ギタイ”と呼ばれる未知の生物と戦争下にある近未来を舞台に、同じ1日を繰り返す主人公の運命を描いたSFアクション漫画である。
人類を殲滅せんとする“ギタイ”により、激しい侵攻を受ける世界。人類は統合防疫軍を組織し、長きにわたる戦いを繰り広げていた。ジャパンで初出撃を控える主人公、キリヤ・ケイジは圧倒的な強さを誇るリタ・ヴラタスキ率いるUSの特殊部隊と共に、コトイウシ島へと送り込まれる。死闘による死を迎えた時、ケイジは出撃前日の朝に戻っていた。
記憶を残したままループを繰り返すケイジは、戦場で生き抜くことを決意。生き抜いてもループを抜け出すことはできず、158周目に至り、リタもまたかつてループを経験していたことを知る。
戦争のもたらす不条理。守るべき人類と愛する人、何故彼は戦うのか
リタは、“ギタイ”の奇襲により両親を失い、3歳上の難民女性の名を名乗り統合防疫軍に入隊、“ギタイ”の殲滅を誓った。ループの中で、ギタイが勝利のため過去にデータを送信する過程で生じた現象であることを知り、データのサーバおよびバックアップを担う“ギタイ”の破壊を目指す。
戦いの描写は躍動感に溢れ、緊張の現場をありありと浮かび上がらせる。登場人物に訪れる死はどれも恐ろしく、苦悶に満ちた表情や単純なセリフが、その恐怖と絶望を突きつける。リタがループを抜け出した時でさえ、誰かの死は免れず、真の喜びもない。そこに戦争の真実があり、途方も無い虚しさがある。
ケイジはループを経験したリタと出会い、ついに“ギタイ”のネットワークの破壊に成功する。しかし、ループから抜け出すことはできず、再びリタと出会う。リタを知り、愛したことでケイジは喜びや楽しさを思い出し、人間らしさを取り戻す。そんな時、基地は“ギタイ”の奇襲を受ける。
2人に待ち受ける運命とは、果たして…。
ケイジとリタが対峙した時、そのタイトルの意味を理解し、人生の不条理を知る。このエンドをどう捉えるか、自分ならどうするか、この物語に希望はあったか、考えずにはいられまい。
2巻完結にも関わらず、起承転結はしっかりとしていて、話も見事にまとまっている。繊細なイラストはケイジやリタの感情を細やかに表現し、戦いの中で成長する様を切なくも美しく描き切っている。反対に戦いの描写は激しく、また力強く、実におどろおどろしい。
いつの時代も戦争は不条理で、人間は愛を知ることで戦う。
戦争とループが融合し、集約された巧みな作品
『All You Need Is Kill』は、戦争や死のループに打ち克たんとする青年の成長と運命を描いた、切なくもドラマチックな作品だ。スーパーダッシュ文庫より刊行された桜坂洋氏による同名のライトノベルを原作とし、小畑健氏の作画によって漫画化されたもの。2014年には、トム・クルーズ主演でアメリカにて実写映画化も果たした。
短いながらもどっぷりとその世界観に没入することができ、戦う意味、生きる意味―さまざまな考えを巡らせることになる。1本の映画をみたような、実に満足度の高い出来である。
原作、それに忠実な本作、結末を含むストーリーにアレンジが加えられた映画版、1度に楽しんでみるのも面白い。