※ややネタバレあり
『西遊記』をベースに紡がれる、瑞々しい生に溢れた旅物語
自分を大切にして自分の人生を自分自身で生きること。
それは当たり前のようで、実はとても難しい。自分を守ること、生きたいと願うこと、それこそが愛する仲間達を守り、自身の人生を生きることに繋がる。『最遊記』は、自分を大切に思うこと、自分の為に生きたいと思うことを真正面から肯定し、その尊さを教えてくれる。
本作は、明代の中国で書かれた長編小説『西遊記』をモチーフにした、独創的かつ斬新な作品である。歴史的な名作に現代的なアレンジを加え、時代と媒体に合った作品へと見事に昇華させている。
舞台は“桃源郷”と呼ばれる、人と妖怪が共存する平和の地。しかし、人との共存を拒み、500年前に倒された大妖怪・牛魔王の蘇生を目論む何者かにより、妖怪達は自我を失って凶暴化し、各地で人を襲うようになった。
天竺国・吠登(ほうとう)城に葬られた牛魔王の蘇生を阻止し、その目的を突き止める為、玄奘三蔵は自我を保つ妖怪、孫悟空、沙悟浄、猪八戒を連れて天竺国―西を目指して旅を始める。
移動手段は、白竜が変身したジープ。道中様々な村や町に立ち寄り、牛魔王の一人息子である紅孩児やその刺客達と戦いながら、ひたすら進む。旅する4人は各々が悲しい過去を抱えている。それらと向き合い、乗り越え、互いの絆を深め合い、成長しながら遥かなる西へと向かう。
優れた作画、軽快な展開、人を奮い立たせる圧巻の言葉選びが魅力
基本的なストーリーは『西遊記』を踏襲しつつ、ビジュアルやキャラクター性など随所にオリジナリティが光る。
作画はとても美しく、視覚的にその独特な世界観を楽しむことができる。ダイナミックなコマ展開や過去と現在の入り交じる抒情的なシーンは特に秀逸で、読む者は自然と作品の世界へと誘われる。また、美麗でありながら、戦闘シーンは躍動感に溢れ、迫力に満ちている。
何より魅力的なのは、キャラクター達の紡ぐ言葉。時にそれは人と妖怪の境界線を取り払い、辛い過去の呪縛から解き放ち、また明日を生きる糧になる。もがいてあがいて、それでも生きていくことは決して格好悪いことではない。自分自身の為に生きることが、ひいては信頼、自信、自由に繋がる。“ただ、生きているだけで格好良い”、そんな風に思わせてくれる。
彼らの抱える過去の闇は深い。例えば悟浄は人と妖怪の間に生まれた禁忌の子で、実の母に愛されず、殺される寸出で兄に助けられた過去を持つ。八戒は実の姉と恋仲にあり、村人により彼女が大妖怪・百眼魔王への生贄にされたことを知り村人を殺害、妖怪の子を孕んだ姉が自害したことで百眼魔王の一族を皆殺しにし、妖怪になったという過去を持つ。
決して逃れることの出来ない過去とどう向き合い、成長していくかもまた見物である。一人では乗り越えられない壁も、愛する仲間がいれば乗り越えることができる。誰かと生きるのは素敵なことだ。
本作では、4人の長い旅の一端と成長、徐々に明らかになる過去や牛魔王蘇生実験の片鱗を楽しむことができる。彼らの旅は、本作から半年後を描く『最遊記RELOAD』(全10巻)へと続く。本作だけでも傑作と呼べるのだが、彼らの詳しい過去、紅孩児の行く末、旅の先に待ち受けるものが知りたくなったという人には、ぜひ読んでみてもらいたい。
自我について考えさせられる、壮大かつユーモラスな完結作品。20年以上にわたり人気を維持し続ける、もはやオリジナルのヒット作
『最遊記』は、1997年から2001年にわたって『月刊Gファンタジー』にて連載された、全9巻のユニークな漫画作品。世界的に愛され続ける『西遊記』をベースに、独自の解釈と個性的なアイディアでアレンジを加えた、味わい深い良作である。続編として『最遊記RELOAD』、その続編として『最遊記RELOAD BLAST』(既刊3巻・未完)がある。また、本作の500年前の時代を描いた『最遊記外伝』(全4巻)、玄奘三蔵の師・光明三蔵の若かりし日々を描いた『最遊記異聞』(既刊1巻・未完)もある。
2000年および2003〜2004年、2017年にテレビアニメ化、2001年にアニメ映画化、2008年にはミュージカルとして実写・舞台化された。シリーズの人気は非常に高く、放送時期は未定だが、『最遊記RELOAD -ZEROIN-』として、現在5度目のテレビアニメ化が発表されている。アニメはまさに漫画の世界観そのままなので、「気に入った!」という人は絶対に見てみて! 100%好きになる(はず)!
連載開始から20年以上が経過した今なお愛される本作。名作ゆえストーリーは色褪せず、現代の我々に通じる人間性を持ったキャラクター達は輝き続ける。“生きているって最高にクール”と心から思える内容なので、生きることに疲れた人や自己犠牲の精神に溢れた人にこそ読んでもらいたい。自分勝手だけど独りよがりじゃない、自分の為だけど自分だけの為じゃない、そんな格好良さもやっぱり粋だよね。