「名古屋は日本で第3の都市だがね!!」
強烈なメッセージ(=キャッチフレーズ)がインパクト抜群だったりする『八十亀ちゃんかんさつにっき』は、そのお言葉通り、名古屋を「これでもか!」とリスペクトするコミック。名古屋版“ご当地マンガ”として、ゆるキャラ化されるほど大人気なのです。
名古屋および周辺の方々への偏見が随所で見受けられます!?
『八十亀ちゃんかんさつにっき』を読み始めると、なかなか本編が始まらずにイラッとするかもしれません。実はこの“イラッ”も、本作品の味わいなわけで。超個人的な偏見ですが、名古屋の“ナゴヤ文化”を大雑把に表現すると「いろいろクドい」。つまり、本編前の但し書き(注釈? 言い訳?)がやたら長いことにも納得なのです。
「この作品では、名古屋およびその周辺の方々への偏見が随所で見受けられます」
「こちらはあくまで各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます」
主人公が自ら「慎重すぎんだろ!!」とツッコむほど、クドい。まずは冒頭から、こうした名古屋的クドさ耐性を鍛えることが大切です(違)。
いっぽうで「名古屋愛溢れる4コマをご覧ください」と記されている通り、全編に溢れかえる“名古屋愛”に浸ることも、作品と同化する心得に。そんな心得が必要なのか、などと突っ込んではいけません。何事も強引に「~だがや」で押し通すタフさは、ナゴヤ文化の真髄なので(超偏見)。
ちなみに筆者は生まれも育ちも東京ですが、ルーツが名古屋文化圏の三重県北部なためか、それなりのナゴヤ耐性を習得しています。本編でもネタとなった“メーエキ”が、“名古屋駅”を意味することも知っています。てか、フツーに“メーエキ”と口走りがちです。ヤバい。
つまり、本作品にはとっても好意的なので念のため(笑)。
名古屋人が味噌で顔を洗う都市伝説はデマ
さて、コミック本編は3人プラス1人のキャラクターによって進められます。
・主人公:陣界斗
じんかいと。唯一の男子キャラで、東京生まれの東京育ち。名古屋の高校へ転校し、嫌でもナゴヤ耐性を高めさせられることに…。
・メインヒロイン:八十亀最中
やとがめもなか。愛知県出身・在住。強烈な名古屋弁を駆使し、高濃度の名古屋イズムで武装した強キャラ。生徒手帳に【つけてみそかけてみそ】ジュニアを常備して(挟んで)いる。
*注)バトル漫画ではありません。
*注)【つけてみそかけてみそ】愛知県の味噌・調味料メーカー:ナカモ株式会社が販売する汎用合わせ味噌。東海圏では定番の家庭用調味料。小袋パックの“ジュニア”や“プチ”も人気。
・サブヒロイン:只草舞衣/ただくさまい。岐阜県出身・在住
・サブヒロイン:笹津やん菜/ささつやんな。三重県出身・在住
八十亀・只草・笹津の3人が、愛知・岐阜・三重(北部)で共有される“ナゴヤ文化”を陣に教え込む。そんなスタイルで物語は進みます。
その際、欄外に《やとがMEMO》として注釈や解説が付記されるのですが、これがまた面白い!
トーキョーもんの陣が「名古屋人は味噌で顔を洗うのかもしれない」と恐れていた味噌の年間消費量は、意外にも全国37位。1位:長野県に比べ、三分の一ほど。
ナゴヤ文化を代表する喫茶店のモーニングネタでは、本編+MEMOで愛知県の喫茶店数が全国2位(1位は大阪府)と解説。人口あたりの店舗割合は全国3位で、1位は高知県なのだとか。へぇー。
と、Wikipediaより役立ちます(笑)。ちなみに、人口あたり店舗割合の2位は岐阜県らしく、やはり東海圏の喫茶店文化は恐るべし…なのです。
名古屋に観光地はありません(正論)
などとナゴヤ文化をリスペクトしつつ、実は自らディスる面も見受けられます。自慢ネタがいつの間にか自虐ネタになってしまう二面性は、ナゴヤ文化を具現化したキャラ:八十亀ちゃんの可愛らしさでもあるわけで。
例えば岐阜県キャラの只草が「名古屋に観光地はありません」と言い切り、名古屋っ子の八十亀ちゃんが反論できない様は、なかなかシュール。
ひたすら名古屋びいきな八十亀ちゃん、クールに客観的な目でナゴヤ文化を語る岐阜モノ・只草、一歩退いたところで都合よく立ち回る三重っ子な笹津。ギャグ漫画にも関わらず(むしろギャグ漫画だからこそ?)緻密に計算されたキャラ設定は、作品を支えるポイントに。
三者三様なキャラが描き出すナゴヤ文化は、地域性を知る人に“いかにも”な面白さ、ナゴヤ文化に縁もゆかりもない人に異次元な面白さを提供してくれるでしょう。単なるご当地ネタを羅列したギャグ漫画ではない、奥深さや懐の広さ。その魅力にハマると抜け出せなくなる“沼性”は、ある種、ナゴヤ文化と共通項なのかもしれませんね。