漫画雑誌「少年マガジンエッジ」(講談社)で2019年から連載されていた『江戸前エルフ』は、神社の御神体として召喚されたエルフと、巫女が織りなすハートフル日常系コメディ。2023年春にアニメ化された際も「待望のアニメ化!」と話題を集めた、人気作の魅力を探ってみましょう。
ゲームしてマンガ読んでアニメ見て爆睡……!?
『江戸前エルフ』の物語は、江戸の風情を色濃く残す東京・月島で創社400年以上になる高耳神社を舞台に、W主人公=Wヒロイン的なスタイルで進んでいきます。
同神社の御神体として祀られ、創社当時(つまり400年以上前)に異世界から召喚されたエルフ(♀)がエルダ。町内の人々からは“高耳様”と慕われるものの、実は超絶な引きこもりヲタク系キャラで、その私生活はゲームしてマンガ読んでアニメ見て爆睡……って、『ハヤテのごとく!』(畑健二郎/小学館)の三千院ナギですか(苦笑)。
そんなエルダの困ったちゃんぶりに手を焼くのが、15代目巫女になったばかりの小糸(16歳)。何事も“ちゃっちゃ”とやらなければ気が済まない江戸っ子気質で、自分とは正反対のエルダに悩まされながらも、ふとした際に垣間見える彼女の優しさや思いやりに惹かれていき……。
エルダと小糸は召喚魔法の精霊で繋がり、何かといえば「巫女よ、巫女よ……」と、エルダがお願い事をしてきます。ファーストフード店のセットメニューを頼み、「おまけ食玩の*番と*番を貰ってきておくれ……」などと。
しょーもないお願いの連発にイラついた小糸が、エルダにスマホを使わせた際には、放置された精霊が「夜露死苦~」とグレてしまったことも。以来、引きこもりなのにスマホだけは使わなくなったエルダでした。めでたしめでたし。
ゆるゆる感あふれる作風がクセになる
じゃなくて。
愛用ノートパソコンでネット通販にハマり、小糸から貰ったお小遣い(元はお賽銭)で各種グッズを買いまくるエルダですが、引きこもりには訳があります。
エルフは人間と桁違いの寿命だけに、街の変化や人々の生き様が、ときに心の重しとなってしまうのです。仲良しだった人が、(エルフの時間感覚では)すぐに寿命で死んでしまう。その悲しみから、人との触れ合いを避けるように……。心優しいエルダならではの一面が、物語の進展とともに見えてきます。
が、そこで感動に浸っていると、すぐに“ヲタク万歳☆”なダメ人間的エルダが現れます。こうしたジェットコースター感あふれる作風が、やがて心地よくなっていくわけで……。良くも悪くも意外性を発揮し続けるエルダと、どこまでも生真面目だけれど16歳らしい無敵感あふれる小糸。アンバランスな二人が織りなす日常に、なぜか癒されてしまう。そんな空気感こそ、本作品の本質なのでしょう。
ゆるゆるゆるゆるしつつ、時にしんみり、時にほっこり、時に「うんうん」と頷き、時に「おい!」と突っ込みたくなる。
その絶妙なサジ加減は、作者の前々作『あしたのファミリア』(講談社)でも感じられたモノ。エルダの特徴ある目元など、作画タッチにも共通面が見え隠れするので、そちらを併読しても楽しめるかと。
描かれる日常の風景には、物語の舞台となる、東京・月島の下町風情も味わいとなります。同じく月島をモデルにした『3月のライオン』(羽海野チカ/白泉社)とも、相通じるものがありそうです。
根底に江戸庶民文化が漂う面白さ
いっぽう、エルダが見せる(語る)文化要素も、作品の大きな魅力に。
エルダが召喚された400年前といえば、関ヶ原の戦いで東軍が勝利し、征夷大将軍となった徳川家康が江戸幕府を開いた頃。あの家康を“お友達の徳川家康くん”扱いするエルダは、召喚された現世の江戸時代文化を、こよなく愛しているらしく。
月島の名物もんじゃ焼きに関するルーツや、当時の広告や遊び、商売など……。江戸庶民文化が巧みに盛り込まれた物語は、読むだけで「へぇ~」「ほぉ~」と楽しく、勉強にもなります。
また、エルダの趣味でもあるプラモデルや食玩などヲタク文化を啓蒙する作風は、あの『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(秋本治/集英社)も彷彿とさせます。“こち亀”が好きな方であれば、本作の面白さにもほくそ笑むはず?
総じて、モノづくりにおける品質の高さを感じさせるような作品だとも。すべてにおいてソツがない、流麗さとでもいい換えられそうな。
さまざまな人気作を彷彿とさせる作風から、読者を選ばない、誰でも楽しめる作品に仕上がっていることは確かでしょう。
なお、『江戸前エルフ』は掲載誌「少年マガジンエッジ」の休刊に伴い、2023年12月下旬から漫画アプリ&WEBサイト「コミックDAYS」へ移籍。作品名やコンセプトはそのままに心機一転、今後の新展開にも期待したいところです。
コメント