外国人の目に映った“古き良きニッポン”が現代に蘇る『ふしぎの国のバード』

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ふしぎの国のバード
『ふしぎの国のバード』(佐々大河/KADOKAWA)
目次

明治時代に日本を訪れたイギリス人の冒険家&紀行作家:イザベラ・バードが、東京から北海道までの旅を記録した『日本奥地紀行』。その歴史的な原作をベースに、現代風な視点も交えつつ、当時の旅日記を読みやすくコミック化した作品が『ふしぎの国のバード』なのです。

明治期の旅物語『日本奥地紀行』をコミック化

原作者:イザベラ・バードが日本を旅したのは、1878年のこと。そういわれてもピンと来ないかもしれませんが、明治11年と聞けば、読み物としての魅力だけでなく、資料的価値も窺い知れるでしょう。

明治維新から約10年、まだ政情も世も不安定だった頃の日本。当時の庶民生活を記した資料自体が少ない中、外国人の目に映る“素の日本文化”は、それだけでも興味深いわけで。

とはいえ、原書の『日本奥地紀行』は数百ページ・数冊に及び、読み始めるには時間と覚悟が必要なことも確か。コンパクトにまとめられた文庫版でも500ページ超だけに、興味はあるものの手を出せずにいた方も少なくないのでは?

そこで誕生したのが、2013年から連載が始まったコミック版『ふしぎの国のバード』。物語は1878年(明治11年)5月、バードが横浜港に降り立ったところから始まります。

当時はまだ未開の地だったハワイを歩く『イザベラバードのハワイ紀行』、欧州人にとって未知の地・アメリカを紹介した『ロッキー山脈踏破行』などを記し、女性冒険家・紀行作家として知られたバードですが、極東の島国・日本は初訪問。もちろん、異世界の言葉にしか聞こえない日本語など“ちんぷんかんぷん”で……。

なわけで、彼女の初仕事は、日本の文化や“奥地”の生活に精通した、凄腕の通訳を探すことから始まります。が、そこで早くも、彼女は異国・日本の洗礼を受けることに……。

原作と異なる日本人的な感性が読みやすさに

『ふしぎの国バード』では、報酬目当てにロクでもない通訳候補者が数多く押しかける様が面白おかしく描かれます。

が、こうした描写にはコミック化する際の脚色も為されているようで……。原作『日本奥地紀行』では、(外国人の感覚からすれば)安価な報酬で一生懸命&誠実に仕事をこなす、日本人通訳に感動する一幕も記されています。

バードが感心した日本人の勤勉さ・真面目さは、敢えて、読み進むうちにじわじわと伝わる構成になっています。外国人らしくストレートに想いを綴った『日本奥地紀行』とは趣が異なる、日本人的な感性といえるかもしれません。

いっぽう、『日本奥地紀行』でバードが悩み続けた日本食に、「なんておいしい食事なの!」と感動するシーンも。外国人が見た日本の美学として、良くも悪くも“日本人に読みやすい”作風を意識しているのでしょう。個人的には、それはそれで正解だと思うのです(逆に、『日本奥地紀行』から感じられる欧米人の“上から目線”に、違和感を覚える部分もあるわけで)。

日本の原風景と庶民の暮らしが伝わる“奥地”紀行

バードの旅は、東京(横浜)から日本海側へと向かい、新潟から秋田・青森を経て北海道(当時の蝦夷)へ。西洋人が訪れ、欧米にも紹介されていた表街道=奥州街道とは異なるルートを歩くことで、より“日本らしい”光景が広がります。

原作のタイトルにもなっている“奥地”は、そうした東北の片田舎を称した世界観だとも。外国人など目にしたことがなかった地方の人々との触れあいには、ありのままの、明治初期の庶民生活が描かれているわけで。

そんな『日本奥地紀行』の魅力は、『ふしぎの国のバード』でも十分に堪能することができます。むしろ、現代の日本人が求める“古き良きニッポン”要素を、よりクローズアップした作風といえるかもしれません。

他に類似作品が見当たらない、独特かつ独自の世界観には、好き嫌いが分かれる面もありそう? でも、歴史や文化好きな方には、間違いなくお勧めできる作品です。

ちなみに、バードと通訳の会話(日本語)を英語に逆翻訳した、バイリンガル版(『UNBEATEN TRACKS in JAPAN』)も発行されています。基本は中学~高1程度の英語なので、英会話の入門書としてはもちろん、日本を訪れた外国人とのコミュニケーションにも役立つはず。東京オリンピックが通常開催されていれば、より注目の作品になっていたでしょうが……。

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この記事を書いた人

コミック、アニメ、鉄道、バイク(カブ主)、クルマ、旅、温泉、キャンプ、歴史&城、Audio&Visual、阪神タイガース、NFLなど、好きなモノがありすぎて困る多趣味人間な物書き(フリーライター)。神棚作品は『逮捕しちゃうぞ』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ARIA』。

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