コロナ禍の“お一人様”ニーズから、一大ブームを巻き起こしつつあるバイク。二輪免許を取得する人が急増し、今や教習所はパンク状態に。そんなバイクを題材にした隠れた名作が、今回の『グッバイエバーグリーン』なわけで。果たして、その魅力とは……?
バイク専門誌で連載された“幻の人気作”
バイク漫画といえば、多くの人は『ばくおん!!』や『バリバリ伝説』を思い浮かべるかもしれません。前者が日常ツーリング系の代表作なら、後者は『頭文字D』と同作者らしく峠攻め~サーキットに特化した作品といえるでしょう。
また最近は、“ゆるふわ系”の『スーパーカブ』『ゆるキャン△』などからバイクに興味を持ち、教習所へ入校する人も増えているとか。作品に登場するスーパーカブやビーノ、トリシティは、納車まで数か月~半年待ちが当たり前なほど大人気に。
いっぽう、ちょっと“通”を気取れそうなバイク漫画としてお勧めしたいのが、今回の『グッバイエバーグリーン』です。ちなみに『ばくおん!!』作者・おりもとみまな氏も、単行本化を待ちわびていた作品だとか。
この『グッバイエバーグリーン』は、成り立ちからして他のバイク漫画とは異なり、バイク専門誌に掲載されていた作品です。なので、当初から“漫画<バイク”な背景で誕生したともいえそうです。
また、掲載誌『RIDE』の休刊により、エンディング直前の第13話で物語が中断されたことからも、ファンの記憶に“幻の作品”と刻み込まれました。
多くのファンから寄せられた声に応える形で、最終話:第14話を加筆して単行本化されたことも、幻の人気作らしいエピソードかもしれません。
“いつもの風景”が“初めて見る光景”に変わるバイクの魅力
主人公は、早くに父を亡くし、おじいちゃん子として育った女子高生。バイク&女子高生のコンセプトは、『ばくおん!!』や『スーパーカブ』『ゆるキャン△』とも共通する鉄板要素?(笑) 大好きだったおじいちゃんが亡くなり、祖父の想い出が詰まった工房を訪ねた彼女は……という情景から、物語はスタートします。
その工房で、彼女の目を釘付けにした古いバイクが、ヤマハ:YDS-1。1950年代に誕生し、国産初の本格的スポーツモデルとして伝説化したモデルです。
ド素人ながら免許を取得し、それこそ“おじいちゃん”なYDS-1に乗り始めた彼女は、バイクの魅力にのめり込んでいきます。目に映る“いつもの風景”が、“初めて見る光景”に変わる新鮮な感動と驚き。彼女が感じた想いは、バイク乗りなら誰もが体感する魅力。だからこそ、読者であるライダーからも絶大な支持を得たわけです。
が、おじいちゃんの形見だったYDS-1は寄る年波に勝てず、再起不能な重症に……。泣く泣く手放した彼女を待っていたのは、新たな愛機、ヤマハ:SDR200との出会い。こちらも80年代のバイクですから、懐古的な世界観は変わりません。掲載当時の読者にとって、より現実的な相棒に変わったとも考えられます。
その世界観は、1978年から43年間にわたり製造され、2021年にラストイヤー(生産終了)を迎えたヤマハ:SR400とも相通じるものが。同モデルの熱狂的な人気も、『グッバイエバーグリーン』の魅力を再発見するきっかけになりそうです。
バイク乗りにとって至福の瞬間が……そこにある
物語自体は、意外なほど淡々と、事件らしい事件もなく進みます。作者の代表作『ぜっしゃか! -私立四ツ輪女子学院絶滅危惧車学科』を読まれた方なら、思わずニヤッとする展開でしょう。
バイク漫画としては珍しいパターンですが、バイク歴が長い方ほど、リアルなバイクライフを感じられるのではないでしょうか。
「バイクの機嫌が悪いのは、乱暴に扱われたり、全然乗ってもらえなかったりするから。いつも気にして、様子を見てあげるのが一番かな? 人もバイクも、おんなじ」
「なにも考えずに走り続けろ。走ってりゃ色褪せた景色に好きな色をつけられる」
バイク好きとの出会いから様々な想いを吸収しつつ、彼女のバイクライフはゆっくりと時を刻んでいきます。バイクとは、その人の「止まりかけていた時間」を再び動かしてくれるもの。まるで、何かの魔法のように……。
ちょっと恥ずかしいロマンチスト? いえいえ、本作を読めば、誰もが自分の「止まりかけていた時間」に気づくはずですよ。
「オートバイってサイコー!! よ~し、飛ぶぜぇ~」
スロットルを“グィン!”と開ける彼女の、本当に楽しそうな笑顔。それこそ、バイク乗りにとって至福の瞬間なのですから。