『作りたい女と食べたい女』に見る「人と人との理想的な需要と供給の関係」とは……?

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作りたい女と食べたい女
『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ・著/KADOKAWA)

同じマンションの隣の隣に住む独身の女性二人の「食」を通じた交流を描いた『作りたい女と食べたい女』。タイトルどおり、「たとえお金を払ってでも、誰かに自分の料理を振る舞いたい」「作りたいと思った料理を、思う存分作りたい」「豪快な食べっぷりを見たい」という野本さんが、大柄でいかにも沢山食べてくれそうな春日さんを“ナンパ”し、お互いの「需要と供給」の関係を満たし、距離を徐々に縮めていく過程を魅力的に綴った本作の魅力を紹介したい。

目次

「作る」だけじゃなく「食べる」までないと料理は成立しない自分”

漫画を読んで「アートが観てくれる観客がいないと成立しないのと同じように、料理も“食べる”までがないと成立しないんだな」「誰かが私が作ったの食べてくれたらなぁ……」とぼやく野本さんの密かな願望を知り、純粋にただ料理を作れる楽しみもあるけれど、喜んでくれる誰かの顔が見たくて作っているところがあるんだなぁと、しみじみしたものだ。

おそらくこれは「承認欲求」とは似て非なるもので、自分が起こしたアクションに対して、何らかのリアクションが欲しいという、ささやかな希望にすぎない。だから別に料理の味付けを褒めて欲しいとか、「こんな料理が作れるなんてすごいね!」と言って欲しいわけではない。もちろん「まずい!」と言われるよりは「美味しい!」と言ってもらえるほうが有難いけれど、本当は口に合わないのに無理して食べてもらっても、きっとちっとも全然嬉しくないはずだ。

著:ゆざき さかおみ
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灯台下暗しとはまさにこのこと。「こんな近くに夢を叶えてくれる逸材が……⁉」

ある日、ケンタッキー(ではないが)のようなチキンのパーティバーレルを両手に沢山持ってエレベーターに乗っていた春日さんと遭遇した野本さん。目が合ったため、「いいですねぇ。パーティですか?」とぎこちなく話しかけたところ、まさかの「いえ、ひとりで食べます!」という予期せぬ答えが返ってきて唖然としてしまう。「お隣のお隣にあんな逸材が……!?」とその食べっぷりが気になりすぎて、「そんな楽しいことが壁の向こう側で起きているなんて知らなかった。お近づきになりたいなぁ」とあらぬ妄想が頭をよぎりながらも、「いや、突然自作の料理を持って押しかけてくる同じ階の住人とか怖すぎるわ」と我に返る。

だが、その翌日。自作の弁当を会社で食べていたときのこと。「俺も彼女に弁当作ってもらいたい」と突然話しかけてきた男性社員に「自分のために好きでやってるもんを、“全部男のため”に回収されるのはつれ~な~」と腹が立ち、そのストレスを大量の料理づくりにぶつけてしまう。で、「や、やってしまった~!」と後悔したのもつかの間「あ!」と思い立ち、ついに意を決して「あ、あの……夕食はお済みでしょうか?」とお隣のお隣のピンポンを押してしまうのだ。

そして山盛りのおすそわけを前に「食べていいのなら、ありがたくいただきます」と大きな度量で受け止めた春日さんは、スプーンを手にするや無言で「ガツガツ、ばくっばくっ」とあっという間に平らげる。「こんなに全身で“おいしい”って食べてもらえたの初めてだ」と感動した野本さんは「ふわふわのおっきなカステラを、集まって来た動物たちに振る舞うのが夢だった」「でも私のもとに動物たちが来てくれることはなかったから、ずっと探してたんだ。一緒におなべをからっぽにしてくれるひとを」と、“おおきなカステラ”づくりが登場する「ぐりとぐら」の絵本を読んでいた幼少時代の夢を思い出す。

「女性同士だから」だけではない、その先にある「人と人とのつながり」に想いを馳せる

こうして運命的な出会いを果たした野本さんと春日さんの「持ちつ持たれつ」な蜜月が始まるのだが、食に関することだけでなく、身体やメンタルの不調といったピンチの時にもお互いに支え合う、理想的な関係へと発展する。

天秤のように、どちらか一方だけが「重い」とその関係は成り立たないが、この二人の場合には「かゆいところに手が届く」奇跡的な相性の良さがある。それを「女性同士だから」の一言で片づけてしまうのは簡単だ。彼女たちの背景には、それぞれに深い事情がある様子が、その後につづくストーリーからも伺えるが、この漫画を読むと「人と人との関係はこうでありたい」と、肩ひじ張って生きている日々から、ほんの少しだけ解放されるような、そんな柔らかくてあたたかい想いが押し寄せてくる。

著:ゆざき さかおみ
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脚本:ゆざきさかおみ, 山田由梨  出演:比嘉愛未, 西野恵未, 森田望智, 中野周平, 野添義弘
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この記事を書いた人

インタビュアー・ライター。主にエンタメ分野を中心に、著名人のインタビューやコラムを多数手がける。多感な時期に1990年代のサブカルチャーにドップリ浸り、いまだその余韻を引きずっている。

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