核大戦による人類滅亡後の日本を舞台に巻き起こる、機密文書をかけた壮絶サバイバル。好奇心をくすぐるSFディストピア漫画——『虎鶫』

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虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT-』(ippatu/講談社)

※ややネタバレあり

目次

人類の消えた日本の行く末、好奇心を刺激するフィクションの世界

人間の好奇心は無限大で、それは“人類滅亡後の世界”にまで及ぶ。

「もしも」の世界について考えれば時間はすぐに過ぎ去るし、誰の胸にも未知への憧れがある。日々湧き上がる知的好奇心は留まる所を知らない。ここに、気楽に読めて、旺盛な好奇心を満たしてくれるオリジナリティーに富んだコミックがある。

『虎鶫』は、はるか未来を舞台にしたスペクタクル大作だ。

物語は、核大戦によって崩壊し、放射能の影響を受ける“旧日本”から始まる。“旧日本”には、戦争の引き金となった秘密兵器に関する機密文書・TORATSUGUMIが存在する。フランス軍は死刑囚を集め、成功後の滅罪を約束し、その回収を命じる。そんな中、死刑囚を乗せた飛行機が“旧日本”上空で墜落。スパイ容疑で逮捕された元軍人の主人公・レオーネは、妻のマリとそのお腹の中にいた子に会いたい一心で作戦の遂行を目指す。

“旧日本”は荒廃していたが、人間とは異なる服を着た知性のある生物―新人類や未知なる生物が数多く生息していた。それらの生物に攻撃を受けたレオーネは、赤い目に青い髪、鳥の脚を持つ女児・つぐみと虎に助けられる。その後サバイバルを続けながら、公文書庫のある西新宿を目指すことに……。

既刊3巻、まだ始まったばかりの若いコミックである。

未だ物語の全貌は見えないが、“核戦争後に滅んだ日本”に焦点を当ててみると実に興味深い。日本が滅びたのは260年前という設定だが、放射能の影響は消えていない。建造物は残存しているが、私達の知る人類は存在しない。

「もしも地球が滅亡したら」、「もしも人類が滅亡したら」――誰もが一度は考えたことがあるだろう。『虎鶫』に描かれる“旧日本”はまさに、そんな「もしも」に対する一つの答えである。

人類の消えた世界で独自の進化を遂げる動物達、人類が消えても残る建物や記録。確かに衰亡してはいるが、間違いなく人類の痕跡がある。豊かな緑に覆われたそこは、どこか儚く、美しくさえある。

見事に描き込まれた繊細な画はどの場面をとっても素晴らしく、想像のみで表現された“人類滅亡後の日本”を眺めているだけでも楽しい。

今後の展開に期待を寄せつつ、独創的な幽玄の世界を堪能する

同じ飛行機に乗っていた死刑囚を見つけたレオーネは、元ペルシャのスパイであるドゥドゥを助け、以降行動を共にする。ある日、レオーネが建物の下敷きになっていた虎を助けたことで、つぐみと虎が後を付いてくるようになる。

ようやく公文書庫に到着した2人だったが、そこは既に誰かが探った後だった。第一陣と思われる人物の死体を発見するも、その人物を襲ったと思われる上半身が鳥の鳥人間に襲われてしまう。しかし、駆け付けたつぐみが鳥人間を撃破。

2人は公文書庫で拾った探索部隊・ゼロ(仮名)の日記を読み、佐渡に秘密兵器に関する極秘研究施設があることを知る。何か知っている様子のつぐみと本土で別れ、一路佐渡を目指す――。

核兵器を嫌悪する日本が核戦争の舞台となるに至った秘密兵器とは、核大戦後の日本はどのような運命を辿ったのか、つぐみの正体とは、つぐみは何を見て何を知るのか……。未だ多くの謎と伏線が残されている本作。

ストーリーはややスローペースなので、今後ドラマチックなシーンが繰り広げられることに期待したい。現状では、人類が消えた5,000万年後の地球を学術的に予想した人気書籍『アフターマン』(ドゥーガル・ディクソン著)のように“あり得るかもしれない未来”を楽しむのが良さそうだ。画力が高く、細部まで繊細に描かれているので、読んでいるだけでパラレルワールド――ここではない日本を主人公と共に探索している心持ちになれる。

フランスでは既にヒットを飛ばす、名作の予感漂うSF超大作

『虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT-』は、核大戦後の日本および核大戦の引き金となった秘密兵器の謎を描く、SFサバイバル漫画である。ippatu氏により『ヤングマガジン』にて2021年より連載中で、既刊3巻。また、各電子書店でも配信中。フランスにて先行連載され、大ヒットを飛ばしている模様。

本作はまだまだ成長の途上にある有望株。今後の展開が実に楽しみである。独自の世界観にどっぷりとハマり、人類滅亡の未来を迎えた日本を探検してみよう。異形のつぐみや相棒の虎はなかなかにチャーミングなので、その表情を観察してみるのも楽しい。また、これから男前なレオーネやコミカルなドゥドゥの人間臭さが表だってくれると、なお面白くなるだろう。

始動したてのコミックが名作となる過程を共に見届けよう!

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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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