「なぜ人は、人を殺してはいけないのか」、正解のない問題の一端を知る—— 『骨が腐るまで』

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『骨が腐るまで』(内海八重/講談社)

※ネタバレあり

目次

幼くして大罪を抱えた主人公らを待ち受ける残酷な未来

「なぜ人は、人を殺してはいけないのか」

回答の難しいその問いに対するひとつの答えが、『骨が腐るまで』にある。多感な時期の中高生たちにこそ、本作を読み、自分なりに考えてみてほしい。

誰かに向けた悪意は、いつ、どのようにかは知る由もないが、必ず自分へと返ってくる。長い人生の中で、その悪意からは決して逃れられない。

5年前の夏、主人公・中村信太郎は親友の豊島椿、神崎明、永瀬遥、二枚堂竜と共にDVを繰り返す信太郎の父親を殺害し、遺体を山中に埋めた。その秘密を守り抜くため血判状を作り、毎年夏祭りの日に遺体の有無を確認している。

ある日、地中から遺体が消えた。5人の罪を知る正体不明の男からの電話を受け、骨になった遺体と血判状を返す代わりに指示に従うよう強要される。秘密を守りたい信太郎らは、指示に従い、新たな罪を重ねていく。

そんな中親友の1人が殺害され、警察の捜査の手も迫り、信太郎らの心は崩壊しつつあった。それでも犯人捜しのために奔走する信太郎は、やがてある真相に辿り着く。果たして、彼らが選ぶ未来とは。

子どもたちの表情には、罪の意識に揺れる感情や自らの行為を肯定しようと必死になる様子がよく表現されている。罪を抱え、親友を守らんと生きてきた彼らが発する言葉もまた興味深い。未成熟な彼らの身体には、その罪はあまりに重く、例え共有しようとも抱えきれない。彼らの言動にその様子がしっかりと表れていて、その描写は秀逸である。

著:内海八重
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子どものために大人ができること、子ども自身で学ぶことの尊さを知る

物語の視点は未成熟な子どもたちだ。だからこそ、大人にとっての気付きがある。

町の大人たちは信太郎の父親の異常性に気付きながら、ただ遠ざけることを選んだ。誰かひとりでも手を差し伸べていれば、子どもたちが殺害という結論に至ることはなかったかもしれない。

死人に口なし。劇中では過去のシーンが描かれることはないから、父親の虐待に至った感情は誰にも分からない。母親の死後、その喪失感に耐えきれず変わってしまった父親。僅かでも優しさを残していた彼を変える方法は必ずあったはずだ。

環境が子どもたちを追い詰め、選択を誤らせ、教育不足が子どもたちを殺人者にしてしまった。大罪の秘匿ではなくこの時に自首していれば、信太郎らの未来は大きく変わっていただろう。隠すことを選んだために、誰にも相談することもできず、罪悪感に苛まれ続けることになってしまった。

作中に、彼らが家族の優しさに触れる場面がある。誰であれ子どもたちの世界に大人は必要だ。彼らの世界は狭く、無限にあるはずの答えも限られてしまう。大人には、その世界の広さと無限の選択肢を教える義務があるだろう。

もちろん、子どもたちが自ら考え、経験し、学ぶことも不可欠である。現実で間違いを犯さぬためにも、本作で信太郎の経験を疑似体験し、同じように問題と向き合い、自分ならばどうするかを考えてみてほしい。罪には必ず罰があり、その罪には終わりがない。誰かが憎む誰かは、誰かの親であり、子であり、兄弟姉妹であり、恋人であり、友人でもある。

本作は力強く可憐な作画で、展開のテンポも良く、謎解きの面白みも詰められていて大変読みやすい。「大人の言うことなんか聞いてられない」と思う人にとっても、漫画であれば受け入れやすいであろう。子どもたちが“罪と罰”について、大人たちが教育について考える良い教材になりそうだ。

罪にまつわるさまざまを考えさせられる、優れたサスペンス作品

『骨が腐るまで』は、内海八重氏によるサスペンス漫画である。小学生の時に殺人という大罪を犯した5人の少年少女の5年後の生活を描いた。ウェブコミック配信アプリ・サイト「マンガボックス」にて2016〜18年まで連載された。講談社コミックスより単行本化、完結済み、全7巻。

本作では死体の解体などがリアリティをもって描かれているため、グロテスクな描写が苦手な人は注意が必要。死体自体や断面などがそこまで細かく描写されているわけではなく、物語上必要なシーンのため、気になる人はセリフに注視しながら薄目で読み進めよう。

信太郎らは犯した罪と向き合い、自分たちなりに一所懸命考え、進むべき道を選択していく。交わされるセリフを受け止めるうち、自ずとタイトルの意味が分かるだろう。終わりがないからこそ、贖罪は難しい。それでも人生は続く。だからこそ、明るい未来のためにも罪を犯してはならないのである。

皆さんにも、ぜひ自分なりの学びを見付けてほしい。

著:内海八重
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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