“渡辺くん”の日常から垣間見える、「棋士」という人々の面白さ『将棋の渡辺くん』

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将棋の渡辺くん
『将棋の渡辺くん』(伊奈めぐみ/講談社)
目次

勝ち上がって勝ち上がって勝ち上がって……厳しい勝負の世界に生きる、謎多き「棋士」という人々

それぞれの町で1番か2番の強さを持った子たちの中で、トップを目指す子が奨励会試験を受ける。毎年の受験者は約50人で、うち合格者は約20人。そうして集まった奨励会約150人の中で、勝ち上がった毎年4人だけがなれる……それが、将棋を指して生活している「棋士」という人々だ。そんな棋士とは、はたしてどんな人々なのだろうか。漫画家の妻が、棋界の第一線で活躍する将棋棋士の夫“渡辺くん”の日常から、その生態を明らかにする……。

「兄たちは頭が悪いから東大に行った」“個性的な天才”たちの日常とは

「兄たちは頭が悪いから東大に行った。私は頭が良いから将棋の棋士になった」とは、(実際には本人発ではなく、別の棋士の冗談が広まったらしいが)故・米長邦雄永世棋聖が言ったとされ、「棋士」たる人々の有り様をよく示すとしてしばしば引用される言葉である。

将棋といえば、昨今はネット配信が盛んになるなどエンタメ的に楽しまれる機会が増え、以前よりは取っ付きやすい、カジュアルな印象が高まりつつある競技だ。一方で、その競技者たる棋士のパブリックイメージは(米長当時、ひいては米長以前からずっと)“個性的な天才”であり続けていると書いても、恐らくは大きな異論は出ないのではないかと思う。

『将棋の渡辺くん』は、そんな謎多き「棋士」という存在について、“渡辺くん”の日常からその実像を垣間見るマンガである。この“渡辺くん”とは言わずもがな、渡辺明名人のこと。A級陥落という大きな転換期を迎えたものの、第一人者としてなお存在感を放つ羽生善治九段や、史上最年少での五冠達成をはじめ、超新星たる快進撃を続ける藤井聡太竜王といった面々と長きにわたり戦っている、棋界を代表する棋士のひとりだ。

「将棋界ではいつも引き立て役」羽生九段や藤井竜王と戦う“渡辺くん”の素顔とは

将棋については、競技者としてはまったくのニワカながら、プロの試合にだけはそれなりに興味がある。渡辺名人が、羽生九段とタイトル戦でつばぜり合いを繰り広げ、そしてここ最近はその相手が藤井竜王に変わった様子くらいは、折に触れて見てきた読者である。

それだけに、筆者の伊奈の言葉として出てくる「将棋界ではいつも引き立て役」という“渡辺くん”への評価は失礼ながら否定しきれず、思わず笑ってしまったところ。恐縮ながら、未読時の渡辺名人に関する知識やイメージはその言葉がしっくりくる程度だったのだが、いざ読むと、“渡辺くん”はさすがマンガの主人公らしい、実に面白い日々を送っている。

本当に好きなのだろう、かなりの頻度で出てくる「ぬいぐるみエピソード」を中心とする日常の姿の数々には、“個性的な天才”の印象が積み上がったり、崩れて“個性的”だけが残ったり。棋士とはこんなに愛すべき人々なのか、将棋とはこんな人々が戦っているのかと、認識を新たにする話が続く。

連載開始は2013年で、“渡辺くん”を主人公としてその時々の棋界の時事を拾っていることもあり、ここ最近の将棋を知る・振り返る目的で読んでも楽しめる。ちなみに、現在の棋界のトピックたる藤井竜王は第3巻の半ばから登場。史上最年少の中学生棋士誕生、として騒がれた当時の様子から、駆け上がる姿が印象的に描かれていく。コミカルな姿になった“棋界の魔王”とその家族の目線から、最近ますます盛り上がる棋界を覗いてみては。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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