ちょっと心がお疲れ気味で、ゆるふわな“ほんわか”癒し系マンガを読みたくなると思い出す……そんな作品が『ふらいんぐうぃっち』。ホウキで空を飛ぶことしかできない魔女見習いの女子高生が、ゆっくりと、でも確実に日々成長していく、日常系魔女漫画(?)なのです。
『魔女の宅急便』とは似て非なるもの?
神奈川県横浜在住の主人公(ヒロイン)・真琴が、とある地方都市にやってきたシーンから物語は始まります。
“見習い魔女”でもある真琴は、15歳で独立する「魔女のしきたり」により、親戚が暮らす青森県弘前市へとやってきます。いわゆる、居候。一緒に来た使い魔の黒猫・チト、又従妹の圭や同級生たちと過ごす日常が、いよいよ始まります。
といった基本設定からは、多くの方が『魔女の宅急便』(角野栄子/福音館書店)を思い起こすのでは? まだまだ未熟な、ホウキで空を飛ぶことしかできない魔女見習いの姿は、同作のキキを彷彿させるもの。東北地方の町が舞台となる魔女物語としては、『魔法遣いに大切なこと』シリーズ(原作・山田典枝、作画・よしづきくみち/KADOKAWA)をイメージされる方もいるかもしれません。
ただ、『魔女の宅急便』のキキが次々と事件(出来事)に巻き込まれていく様に比べ、真琴の毎日には、何も起こりません。時間がゆっくりと流れる地方の町で、15歳の少女らしい純粋な感性から、さまざまな出会いを体験していく……そんな癒し系ストーリーが続きます。
気が短い方は「だから?」と思われがちかもしれませんが、そこは少しだけ我慢して、読み進めることをお勧めします。いつしか真琴が織りなす『ふらいんぐうぃっち』の世界観を、心地よく思う自分に気づかされるはずなので。
ホウキで空を飛ぶことしかできない超天然系ヒロイン
単にゆるふわな日常系物語を求めるなら、他にも話題作は数多くあります。
が、本作はそこにマガジン系らしい、ちょっとした毒味や笑いをさりげなく(あっさりと)盛り込んできます。読み手を飽きさせない創意工夫は、作者のセンスともいえるでしょう。逆に、他のマガジン系の漫画と比較すると、毒や刺激が少ない異端作かもしれませんが……。
こうした毒味や「クスッ」と微笑んでしまう笑いには、真琴の天然さも大きく影響しています。いうなら“超天然系”女子高生(笑)。その観点や思考が純粋無垢すぎるためか、一般人(=読者)の感性とはかけ離れた行動が頻繁に見受けられます。荒唐無稽といったほうがいいかもしれない彼女のキャラクターが、いつしか心地よくなる中毒性こそ、本作の魅力だったりします。
と同時に、真琴の行動を当たり前に受け入れる、居候先・倉本家や街の人々の大らかさも、作品の味わいに。
ホームセンターで購入したばかりのホウキに乗った真琴とともに、いきなり空を飛んでしまった圭の妹・千夏。その姿を目の前で見せられた圭の幼馴染・那央。物語を織りなす主要キャラクターが、最初こそ目を丸くしながらも、すぐ“魔女”に馴染んでしまう様も本作ならでは。冷静に考えれば「エ? エ?」なのですが、不思議と違和感がなく。この自然体すぎるファンタジー感は、他の類似作とも一線を画すものでしょう。
弘前&津軽地方の素朴な郷土色が味わいに
自然体な作風には、舞台となる青森県弘前市も無関係ではないでしょう。
難解な津軽弁が飛び交い、素朴さの中にどこか懐かしい、異国情緒すら抱かせる弘前の空気感には、他の地方都市とひと味違うものがあります。有名な弘前城だけでも訪れてみると、本作の背景が何となく理解できるかもしれませんよ。
作者・石塚千尋は同市出身だけに、津軽地方の独特かつ素朴な空気感を自然体で表現できるのでしょう。
物語に登場する街並みや、印象的な場所などは、ほぼ津軽地方に実在するスポット。作者自身も郷土色を意識しているのか、背景の丁寧な描き込みには感心させられます。聖地巡礼をするファンの多さも、うなずけるところ。
また、こうした描き込みや、素朴な世界観の折々に、後の物語進展へと繋がるフラグが散りばめられている点も見逃せません。聖地の印象が心に残っていることで、後から「あ、あのシーンが伏線だったのか」と気づきやすい。物語への理解度が深まるだけでなく、地道な気づきの積み重ねが、作品の深みともなっていくわけで。
3巻、4巻と読み進むうち、それが5巻、6巻分の内容&情報量であることにも気づかされる。ほんわか癒し系な作風に秘められた濃密さもまた、『ふらいんぐうぃっち』の魅力なのかもしれません。