まず最初にお断りしておくと、この作品は好き嫌いが明確に表れるコミックかも。
各通販サイトやレンタルサイトのレビューを見ても、絶賛意見が多い反面、アンチ派の存在を感じさせるほど叩かれているケースも……。2020年春にアニメ化された作品が好調だったことから、読者層の裾野が拡がるとともに、賛否両論が渦巻く結果になってしまった点は否めない?
女性漫画家が描く“自立する女の子”像を素直に受け止めたい
読後の感想が大きく変わってしまう要因を、いくつか考えてみると……
(1)作者が女性
(2)ルネサンス期イタリアを舞台にした、男尊女卑の世界が物語ベース
(3)天真爛漫で純粋な女性主人公(=ヒロイン)の恋愛劇が織り込まれる
近年は男性向け・女性向けという性別の壁を取り払ったコミックが増え、その傾向は大ヒット作ほど強くなる。かつて男性向け・女性向けに特化することがヒット要因だと考えられていた漫画界からすれば、隔世の感すらある。
同時に、男性ファンをつかんだ作品の作り手が女性漫画家だったりすると、途端に非難を浴びてしまう。良くも悪くも、読者をリードしていく視野やバランス感覚が問われる時代になったんだなぁ……などと思わされる機会も少ないない。「まさにそれ」ともいえそうな『アルテ』は、さらに男尊女卑の時代が物語ベースで。恋愛経験に疎いくせに、ヒロインが恋に恋しやすいという、火に油を注ぐような一面も見え隠れする。
本作品を読まれる方は、そうした事前情報や印象を取り払った素直な気持ちで、作品に入り込んで欲しいのだ。そもそも“素敵”な作品なので、そうすればきっと楽しめるはずだから。
中世ヨーロッパで根深かった男尊女卑の世界に立ち向かうヒロイン
簡単にストーリーを紹介しておくと、ヒロインは16世紀初頭のルネサンス期イタリア・フィレンツェに暮らす、貧しい貴族の娘・アルテ。家庭環境にも恵まれなかった彼女は、大好きな絵の道を目指し、単身で画家の門戸を叩く。当時のフィレンツェといえば、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどが名を挙げたルネサンス文化の中心地。ヨーロッパ貴族社会で貧民層が成り上がるには、画家として大成することが唯一の手段だった時代だともいえる。
いっぽうで、日本以上に男尊女卑が根深かった中世ヨーロッパ。「女が画家になりたいだと!?」など、様々な偏見や男どもの嫌がらせに耐える日々が続く。が、純粋で天真爛漫、逆境にも負けない、優しくて前向きな彼女の姿は、やがて人々の見方を変え始めていく……
ある意味、ものすごく“わかりやすい”成り上がりストーリー。誰でも感情移入がしやすくアニメ化の成功も頷けるところ(でも正直なところ、“まさかのアニメ化”でした)。
イタリア文化への想いで描かれる“すべてが美しい”物語
ヒロインが画家工房の師匠に恋愛感情(らしきもの)を抱いてしまったり、実はスタイル抜群な美少女で、画家や貴族など周囲の人々から愛される展開などは、言ってみれば“できすぎ”な読者サービス。
そこで物語に入り込める読者もいれば、「軟派な要素を入れすぎ」だと反発する層も少なくない。幅広い物語要素が必ずしも原作者の意向だけではないにもかかわらず、それが女性漫画家への誹謗中傷にも繋がっている一面は、とても残念だと思う。
むしろ目を向けるべきポイントは、女性漫画家作品らしい、細部まで描き込まれた人物像や丁寧な背景描写じゃないかと! 美しい街並みや風景などの舞台、激動の時代を生き生きと暮らす人間像など、ルネサンス期イタリアへの想いがひしひしと伝わってくる作風に、文句がある人はいないはず。時代考証をはじめ、作品製作にきちんとした下準備が窺える点も、好印象ポイントだ。
また、比較してはいけないのだろうけれど、そこはかとなく漂う『ARIA』(『AQUA』)感も、同作品が好きな方にはピンとくる要素じゃないかと(えーえー、私のことです)。ちなみに、アニメ版でアルテの相談相手となるお姉様・ヴェロニカを演じたのは、アニメ版『ARIA』でアリシア役を担った大原さやかさん。『ARIA』好きなら、そんな共通点も嬉しいはず。
見る者に元気を与えてくれる少女アルテ。夢に向かって頑張りつつ、日々の暮らしを全身で楽しみ、前向きに生きる少女アルテ。『ARIA』のヒロイン・灯里と違って恥ずかしいセリフは言ってくれないけれど、その姿をダブらせても……いいよね?