『無職の学校~職業訓練校での200日間~』“働く”ことにいま一度向き合う……社会派マンガの注目作

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無職の学校
『無職の学校~職業訓練校での200日間~』(清家孝春/小学館)
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「人に助けてもらうのは訓練校(ここ)で最後にしたい」――“職業訓練校”の門を叩く人々

「職業訓練校」という施設がある。失業して求職中の人や、新たに職業に就こうとしている人などが、就職に向けて必要な知識・技能を学ぶ職業訓練を受けることができる場所だ。「校」と付いているが、年間約500人にもなるここに通う人々は、年齢も過去もすべてがバラバラである。さまざまな境遇を持つ人々を繋ぐのはたったひとつ、無職だという一点だ。

かつて高校卒業時の就活に失敗し、その後の7年間をコンビニでのアルバイトで生きてきた青年・赤松利隆もそのひとり。唯一の肉親であり、同居する自分の面倒を見てきてくれた姉が婚約したことをきっかけに、職業訓練校の門を叩いた。“姉をしっかり送り出したい”と正社員を目指すことにした利隆は、訓練校での200日間を経てはたしてどう変わるのか。

“普通”のキャリア形成はかくも難しい……かつて“転んだ”人に見る「働く」とは

“普通”のキャリアを形成する人生を送るのは、中学生が1000人いれば163人に過ぎない――。ここ数年、キャリア形成に関する話題が出るとネットで盛んに引かれている、『現場で使える教育社会学:教職のための「教育格差」入門』(中村高康、松岡亮二/ミネルヴァ書房)発のデータだ。

文部科学省の『学校基本調査』などに基づくこのデータによると、中学卒業後に「高校を卒業→現役で入った4年制大学をストレートで卒業→正規雇用で就職し3年以内に離職せず」というモデルケース……“普通”とされがちなキャリア形成を辿るのは、1000人中163人に留まるらしい。同書の出版が2021年、その引用元の各種調査が2010年代のものなので、2023年現在でも状況には大差ないはずだ。高校や大学のレベル、就業先の仔細等は考慮されていないので、“いい学校→いい会社”の例はより少ないだろう。キャリア形成で一度も“転んだ”経験のない人は、一体どれほどいるだろうか。“普通”はかくも難しいのだ。

『無職の学校~職業訓練校での200日間~』はそんな、かつて“転んだ”経験のある青年を主人公に、職業訓練校で手に職をつけようと奮闘する人々を描く。主人公のような経験を経て働いている人はもちろん、“普通”という困難な道を歩くことができている人も、働く理由、働く意義……きっと我が身を顧みるものを見つけることができるはずのマンガだ。

なかなかスポットライトの当たりづらい、社会の一側面に真摯なまなざしを向ける、リアルさにあふれる内容は、連続TVドラマ化を果たした『健康で文化的な最低限度の生活』(柏木ハルコ/小学館)も連載中の「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)掲載作と聞けば頷けるもの。著者の清家は実際に職業訓練校に通っていたことがあり、描写はその経験をベースにしているそうだ(各エピソードの合間にある、経験者ならではの「数字から見る訓練校」も見どころだ)。

主人公は「正社員として働きたい」というスタートラインの“先”にあるものに思い悩みながら、職業訓練校での日々を過ごしていくことになる。何のために働くのか。どうして働くのか。自分自身のことなのに、自分ではなかなか分からないし、気付けない。この部分は、何らかの就活に励んだ経験があれば少なからず思い当たる節があり、共感できるのではないだろうか。苦心する主人公を通じて、自分を問い直す読者は少なくないだろう。

「俺の心の準備なんて、社会は待ってくれない」“働く”ことに今一度向き合うために

「俺の心の準備なんて、社会は待ってくれないんだ」。第1巻において、目ぼしい求人を見つけたものの決断を先送りにした主人公が、翌日にはその求人がなくなっているのを知り、発する一言である。かつて、職業訓練校には通わなかったもののハローワークに世話になったことがある読者としては、作中でも特に身に染みた言葉となった。働く人も、働こうとする人も“働く”ことに今一度向き合うことができる、社会派マンガの注目作である。

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この記事を書いた人

アニメやマンガが得意な(つもりの)フリーライター。
大阪日本橋(ポンバシ)ネタやオカルトネタ等も守備範囲。
好きなマンガジャンルはサスペンス、人間ドラマ、歴史・戦争モノなどなど。
新作やメディアミックスの話題作を中心に追いかけてます。

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