「ばいばい 一日だけの恋人」夜の繁華街、ラブホテル前。非行少女は熱血教師と出会う
「お前今ここから出てきたか?」。夜の繁華街を仁王立ちで見張る、美崎学園の熱血教師・藤原は、ラブホテルから出てきた女子生徒を目に留め、声をかけた。見覚えのある制服に、藤原が「おまえウチの生徒だろ!!」と詰めると、その生徒は「かたぎりゆみ」と名乗る。
その名前に合点のいった藤原は、デコピンで非行を咎めつつ、彼女をタクシーで自宅まで送り届けた。しかしその生徒は藤原が見えなくなると、再び夜の街へと消えてしまう……。その翌日。学校中の生徒の顔と名前を覚えている藤原は、補導した「かたぎりゆみ」の違和感をぬぐい切れず、彼女の担任である佐々木に昨夜の出来事を伝えた。しかし、佐々木によると「かたぎりゆみ」は引きこもりで、「遊び歩いているなんてありえません」とまで言われてしまう。それでも「この学校の生徒である以上 自分の生徒です」と指導を申し出た藤原は、昨夜のラブホテルで男性の死体が発見されたというニュースを耳にする……。
「あたしは別に お金のためにホテルに行くんじゃない」少女の“秘密”から、愛もミステリーも動き出す
「あたしは別に お金のためにホテルに行くんじゃない」。ここまで読み進めてきて、「さて、この思わせぶりな援交少女にはどんな裏が?」とページをめくる。すると、彼女が背負う“秘密”のネタ晴らしという第1話の「ヒキ」の画とセリフの決まりぶりに、初読時は思わず「おお……!」と声が出てしまった。「かたぎりゆみ」改め、岸本愛莉という孤独な少女の“秘密”がカギを握るミステリー・ラブ・ロマンスが『私の恋で死んでくれ』だ。
講談社のマンガ配信プラットフォーム「コミックDAYS」で連載されているが、初出は同じく講談社が手がける、編集者とマッチングできるマンガ投稿サイト「DAYSNEO」。そこで発表された原作者としきの『恋死』を、山川まちが再構成したのが本作だという。WEB投稿発で、「コミックDAYS」ではスマホでスクロールして読むことに最適化した「タテ読みマンガ」で連載されているだけあり、特筆すべきはそのテンポ。「次はどうなる!?」が止まらないのだ。
「好きになればなるほど、触れられなくなっていく」“秘密”が邪魔する愛、まねくミステリー
本稿では愛莉の“秘密”を明かすことを避けているため、ストーリーにあまり言及できないのがもどかしいところだが……。愛莉はその“秘密”のせいで、「今まで自分に触れてきた男たちとは違う」と感じる藤原と、意識すればするほど距離を置かざるを得ないのが一番のポイントだろうか。想えば想うほど身を引くしかない、「実ることのない片思い」しかできないその境遇は、話が進むごとに胸が苦しくなるような切なさをもたらしてくれる。
また「男性の死体が発見された」というくだりも、もちろん愛莉の“秘密”がらみなのだが、そこにもしっかりスポットした物語が同時展開するのが、ミステリーとしても面白い本作だ。ラブホテルでの男の連続死で「いずれも“腹上死”であること」「相手の女による通報がないこと」に目を付けた刑事が、第1巻の終わり際にははやくも愛莉へと繋がる糸口を見つける。ハラハラドキドキしながら追いかけたい、愛と運命の行く先である。