『シバトラ』——藻掻く子ども達を未来ごと救い出す、童顔ヒーローの奮闘記。大人の愛情と良き出会いが子ども達を明るい未来へと導く

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シバトラ
『シバトラ』(朝基まさし/安童夕馬/講談社)

※ややネタバレあり

目次

過酷な環境やストレスから犯罪に走る子ども達に手を差し伸べる警察官刑事の勇姿

未成年は知識や経験の蓄積が少なく、判断能力も未熟とされる。そんな子ども達にとって、親や周囲の大人達からの信頼と愛情は非常に重要で、様々な出会いが成長に大きな影響を与える。

多感な時期に何を考え、何を思い、大人達に求めるものは何か。

未成熟な子ども達の内面を覗き見、かつて抱えた言葉にできない想いが蘇る――。『シバトラ』は、少年犯罪の実情と子ども達を救済せんとする刑事の奮闘を描いた、学ぶところの多い素晴らしきヒューマンドラマである。

子ども達にとっては自分が変わるきっかけになるかもしれない、大人達にとっては子ども達を救うヒントになるかもしれない。フィクションながら、どこかに確かに在る真実なのだと思う。読めばきっと、何かが変わる。

中学生に間違われる程童顔の主人公・柴田竹虎は、正義感に溢れる刑事?で、死の迫る人間の周りに“死神の手”が視える特殊能力を持つ。薬物依存の父親に殺人の罪を着せられそうになった少女・宝生美月を救い、派出所勤務から念願だった生活安全課少年係へと異動になる。

子ども達をひたすら信じる竹虎は、元不良グループのリーダーで親友の藤木小次郎や上司の力を借りながら、闇を抱える子ども達、多彩な犯罪と向き合うことになる。サイバー強盗団のリーダー・鬼神を探るため、荒れ果てた公立の中学校に潜入した際は、事件を解決するだけでなく、キャンプを企画してクラスメイト達の仲を深めた。子ども達の未来を願い、複雑な気持ちに寄り添いながら、未成年に売春を斡旋する男に騙された少女、知らぬ間に覚醒剤に手を染めてしまった少女、学生達の間に覚醒剤を広めた少女らを次々と救っていく。竹虎は事件後も子ども達の拠り所となり、慕われるようになっていった。

著:安童夕馬, 著:朝基まさし
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浮かび上がる、醜い大人に左右され、利用されて踏み躙られる子どもの心理

少年刑務所へ潜入して振り込め詐欺グループのCEOを突き止め、独自の方法で改心させる、同級生らを盗撮してお金を稼ぐ少女がさらなる犯罪に巻き込まれるのを防ぐなど、時に救えなかった命と向き合い、自らも成長する竹虎。

そんな中、未成年の重犯罪を次々と誘発する“シャドウ商事”なる組織が世間を賑わせる。その組織は、竹虎の父・景虎と部下である西崎の娘を爆殺した日影明彦が作り上げた組織と酷似していた。

竹虎は、周囲の大切な人々を巻き込みながら犯罪を重ねるリーダーを止めようと奮起。自らを犠牲にしてまで罪を犯した子ども達を守り、ただ更生を信じる。子ども達の閉ざされた心に竹虎の想いは届くのか――。

本作には、大人達に翻弄される子ども達の心理が巧妙に描かれている。親からの暴力や性的虐待、ネグレクトにより居場所を失った悲しみ。親の不仲や不倫に起因する怒りや憎しみ。超名門校に通う高校生の学力を維持し続ける苦しみ。無意識に犯罪に巻き込まれてしまう子どもの無垢さ。インターネットに逃げ、自分や現実から逃避し続ける弱さ。犯罪へと至らしめる数々の激情はどれも共感できるもので、一度は味わったことのある思いであろう。抑えられない思いを抱えた子ども達を止められるのは大人であり、出会いである。

子どもは未来であり、かけがえのない財産だ。真っ白なキャンバスに鮮やかな人生を描いてもらうために大人ができるのは、無条件で信じること。嘘を吐かれても裏切られても、信じ続けること。子どもにとって嘘や裏切りは人格を歪める程の消えない傷になってしまうこともあるが、酸いも甘いも知った大人であれば、その心情を慮り受け容れることができるはずだ。大人の常識や考え、理想を押し付けてはいけない。自ら大人になろうとする子どもを信じ、見守る。それこそが誰にでもできるようで、とても難しいことなのだ。本作を読み、信じることの大切さ、大人としての正しい在り方を察してもらいたい。

子どもの求める大人像が分かる、情緒豊かな名作人間ドラマ

『シバトラ』は、原作・安童夕馬氏、作画・朝基まさし氏による、罪を犯す子ども達やそれを救おうとする主人公の心情を丁寧に描いた、真に迫った少年漫画だ。2007〜09年まで『週刊少年マガジン』にて連載され、完結済み、全15巻。2008年にはテレビドラマ化された。

自らも辛い過去を抱えながら全力で子ども達と向き合い、頭から信じ、改心させようと努力する主人公の姿には心が動かされる。自分は今、子どもの頃に憧れた大人の姿をしているだろうか。成人として正しい姿を見せることができているだろうか。何時ぞや抱えた閉塞感やもどかしさを思い出し、社会の中の大人としての自分について深く考えさせられる。

私達もまだ、誰かを救えるかもしれない。竹虎の活躍に触れれば、子どもの未来を照らす大人になれるはずだ。

著:安童夕馬, 著:朝基まさし
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この記事を書いた人

フリー編集・ライター。ライフスタイルやトラベルなど、扱うジャンルは多種多様。趣味は映画・ドラマ鑑賞。マンガも大好きで、日々ビビビと来る作品を模索中! 特に少年・青年向け、斬新な視点が好み。

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