※世界観に関して読書意欲を刺激するための最小限のネタバレあり
どうして人は“やり直し”を描くループ作品に胸躍るのか?
マンガでもドラマでもアニメでも映画でも、例えば誰かと最近の“おすすめ作品”の話題になった際、普段は特に意識していなくても自ずと見えてくるものがある。それが自分の“性癖”というか“趣味嗜好”だ。先日まさにそうした体験があり、改めて自分が「タイムリープ」や「タイムループ」といった要素を持つ作品が好きだということに気づかされた。
どちらも時間跳躍をするという点においては似ているとも言える、タイムリープとタイムループ。タイムリープは現在から別の時間への移動、タイムループは特定の時間から始まった流れが、ある一定の時間に到達することで最初の時点に戻り、それを何度もくり返す現象をそれぞれ指す。そういう意味で『サマータイムレンダ』は“ループもの”に分類される作品だ。
ループものはマンガに限らず、多くのエンタメ作品で扱われることが多い設定の一つだが、自分も含めてどうして多くの人の心を引きつけるのだろうか。『サマータイムレンダ』を紹介しつつ、その魅力を分析してみたい。
大切な“何か”を守るため何度でも悲劇に立ち向かう姿が胸アツ
タイムリープする場合にも同じような傾向が見られるが、特にループ作品では、主人公が大切な“何か”のためにその時間をくり返すケースが代表的。『サマータイムレンダ』でもその手法がとられているのだが、本作はその見せ方が実に巧妙だ。
主人公・網代慎平が海の事故で亡くなった幼なじみ・潮の死をきっかけに実家のある離島に帰省したことで事件や謎に巻き込まれていくのだが、少々のネタばらしを許してもらえるなら、1巻の途中で主人公がいきなり銃撃を受け、それをトリガーとしてループが発生。ただ慎平自身も意図せぬ事態のため、読者も同じような混乱の中ストーリーが進行していく。ハラハラやドキドキを“リアルタイム”に感じられる感覚は、読んでいてテンションが上がってくる。
いかにも入り口から一気にファンタジックな世界へと引き込み、おまけに「なぜループしたのか?」という謎も提示され、主人公と共にループを“体験”しながら事態の真相に迫っていくというスタイルは、想像以上に物語に緊迫感を生み出し、次へ次へと自然と読み進めたくなってしまうのだから面白い。しかもストーリーの土台となるプロローグ部分を単行本2巻分にわたってじっくりと描き、それでいて小気味よいテンポ感で見せていく手際の良さには目を見張るものがある。
こうした演出の完成度の高さが、ループものにおいて悲劇を回避することを目指す登場人物たちの行動や、その過程で気づかされる日常の尊さやそれまでとは異なる一面を垣間見られるという魅惑的な要素とマッチし、よりエモーショナルな味わいを醸し出しているのだろう。
“光”を目指し奮闘するエモさ&謎を解明する痛快さ、そして“if”という楽しみ方も
大切な“何か”を失わない結果(未来)を手にすべく奮闘するのはループもの最大の見どころでもあるが、入口があれば出口もある。つまり、どのようにすればループから抜け出すことができるのか。その解決への道のりもまた、ループものならではの盛り上がりやドラマがあり、キャラクターに感情移入すればするほど、どのような結末が待ち受けようと没入してしまう大きなポイントでもある。
『サマータイムレンダ』でもループにまつわる謎が積み上がっていくのだが、ネタバレしない程度に設定を明かしておくと、主人公らが直面するのはある能力を持った存在で、その能力のために別の人間と入れ替わっているのだ。そして、能力を持った存在こそが、潮の死や慎平のタイムループに大きく関係してくるのだが、本作の仕掛けはそれだけにはとどまらない。
というのも、慎平はループを発生させる原因について考察していくのだが、トリガーとなる現象に思い至ったとき、ループの見え方が一変するはず。自分や周囲の人を救うべくループをくり返す慎平なのだが、そこには大いなる“矛盾”が生まれ、その要素が心の奥底の方を強烈に刺激してくるのだ。SFやサスペンスで楽しませつつ、一歩先行く構成は読み応えが抜群と言える。
そして「何度でもやり直せばいいのでは」と思いがちなループ能力の“無敵”さに対しても対策は抜かりなし。世界観的には決してそんなことはないのだが、自由ではないにしろやり直しがきくループの“ぬるさ”のようなものも完全に消し去り、よりドラマティックに、よりスリリングに魅せてくれる。至れり尽くせりぶりは素晴らしい。
さらに「もしも自分なら……」といった“if”的な“妄想”を張りめぐらすのもループ作品の良さの一つ。堪能している作品世界だけでなく、現実世界でループしたら……。そんなワクワクが止まらなくなるのも悪くない。ループものの秀逸作として、未体験の人にはぜひオススメしたい。きっとループものの虜になるはず。先が気になるという人も、作品は完結しているのでご安心を。