『罪を犯して服役し、仮出所中の人たちを見守る保護司として活動する阿川佳代を主人公に、世の中の偏見や悪の誘惑、事件の背景なども丁寧に描き出すことで、前科者の生きづらさと彼らを見守る保護司の意義深さを炙り出す漫画『前科者』。有村架純主演でWOWOWオリジナルドラマと劇場映画が同時に製作され、いま再び話題となっている。前科者と保護司の一筋縄ではいかない心の交流に何度も唸らされ、力強い作画とストーリーテリングの巧さにグングンと引き込まれてしまう。人間の弱さや醜さ、あたたかさを描いた本作の魅力を紹介したい。
無報酬で働く国家公務員の保護司の仕組みに驚愕!
筆者はマスコミ試写会でオリジナル脚本の映画版を観て衝撃を受け、原作コミックを手に取ったクチだ。有村架純演じる主人公の阿川佳代の過去は、映画では脚色されていて、保護司になったいきさつがドラマチックになっていた。
この作品を通じて新たに知った事実は、保護司は法務省が委嘱する非常勤の国家公務員でありながらも、驚くことに無報酬のボランティアであるということ。この漫画の阿川佳代も、新聞配達とコンビニの仕事を掛け持ちしながら、限られた空き時間に保護司の活動を行っている。しかもブラック会社に勤務していた時代に身体を壊して入院した際の費用が借金として残っており、その返済のために日夜働かざるを得ないのだ。
佳代が仮出所してきた前科者を保護観察の面談のために自宅に迎える際、あらかじめ用意していることがある。銭湯の回数券を渡してひと風呂浴びてくるようにすすめ、お腹いっぱいの手料理(主に牛丼)をつくって彼らに振る舞うというもの。そもそも女性の一人暮らしの自宅に客を招くというだけでも不用心な気もするが、佳代は「更生したい」と望んでも肩身の狭い前科者の心に寄り添うべく、「おかえりなさい」と温かく迎え入れるのだ。
更生とは生き直すこと。信じて見守ってくれる人がいるからこそ更生できる
コンビニの店長から「なんでそんなことしてるの? 一銭にもならないのに」と訊かれた佳代は、「一銭にもならないからやってるんです」「保護司の仕事をしなければ、私はお金のためだけに生きてることになる」と信条を語る。正義感が強すぎるあまり、時に前科者やその周囲の人間たちと口論になることもある。だが、すべては彼らや彼女たちのことを心の底から心配に思うがゆえの行動であることが、佳代の無鉄砲な言動からは漏れ出てくるので、結果的にそれが相手にも伝わり、徐々に信頼関係を築き上げていく――。
人は誰かに可能性を信じてもらうことで、前に進めるような気がしてならない。もちろんそのためには、自分で自分を信じることが欠かせない。だが、自分以外の誰かがちゃんと日々の行いを見守ってくれていて、「自分を信じてくれるその人のことだけは決して裏切れない」と思うことこそが、悪の道に再び陥るのを、ギリギリのところで踏みとどまらせてくれるのではないか。「自分なら佳代のように前科者の更生を信じることができるだろうか……」とページをめくるたび我が身に問いかけながら、彼らの行く末を読み進めずにはいられない。