2人の少女が、文明が失われた終末世界をオフロードバイクで旅する『終末ツーリング』。世界はどうなった? 他に生存者は? 2人の素性は? 旅の目的は? 様々な謎を秘めた物語は、魅力的なバイク漫画として二輪業界でも話題沸騰だったりします。
“オフロードバイクを操る少女が箱根で戦車とバトル!?
物語は、2人の少女がオフロードバイクで、荒廃した箱根をタンデム(二人乗り)ツーリングするシチュエーションから始まります。
バイク乗りならお馴染みのツーリングルートを走る二人ですが、どこか、何かが違う……。そう、周囲の光景が、文明崩壊後の終末世界らしき様相を呈しているのです。崩れ落ち、朽ち果てようとしている建造物や車などが、次々に……。
もちろん、他の車やバイクは皆無。かつて栄えた箱根・芦ノ湖の遊覧船や温泉にも、人影はなく。どこへ行っても、人間は2人だけ。
いや、正確には、1人と1体? 主人公ヨーコ(人間)と旅をするアイリは、AIが自動操縦する戦車を腕から放った光電磁砲(らしき兵器)で破壊するなど、おそらく人造人間的な何か!?
そもそも、なぜ箱根の観光地に戦車が? 世界はどうなった? 他に生存者は? その前に、2人の素性は? 旅の目的は?
謎が謎を呼ぶ展開のまま、物語は淡々と進行していきます。
生存者=他の“人間”が一切登場しない終末世界
この“淡々とした”世界観は、『少女終末旅行』(つくみず/新潮社)を彷彿させます。同作では少女2人がケッテンクラート(旧ドイツ軍の半装軌車)に乗って旅しますが、本作ではそれが、オフロードバイクに置き換えられるわけで。
とはいえ、『少女終末旅行』に見られたサバイバル要素は、さほど感じられません。食料なども、なぜか偶然に入手できてしまう都合のよさ。温泉の露天風呂を楽しむなど、能天気な旅が続きます。
なので“生存戦略”的なリアル要素を求める方は、やや物足りなさを感じるかも。より気楽に読み進められる、ライト版『少女終末旅行』といった位置づけでしょうか。
その意味では、荒廃した終末世界なのに悲壮感が漂わず、ちょっとだけ冒険チックな日常ライフが描かれる『ヨコハマ買い出し紀行』(芦奈野ひとし/講談社)のほうが、世界観は近い? 他の生存者(?)が一切登場しない分、実は両作品以上に破滅的な世界なのですが……。
唯一わかっていることは、主人公のヨーコがシェルターで生き延びたらしいこと。でも、そこで何が起きたのかは不明です。箱根で2人を襲った戦車のAI(半壊状態)は、かつての放射能異常を示唆していましたが……。
リアルな世界感から二輪業界でも注目度アップ!
彼女らは箱根から首都圏を巡り、旅を続けていきます。
見慣れた箱根や秋葉原の光景は、とてもリアル。廃墟の姿形が想像そのままな、“仮想リアル”とでもいえばいいのか……。「文明崩壊後は、きっとこうなるのだろう」と、説得力あふれる光景が描かれます。
こうした描写は、作者の力量・画力が為す技でしょう。作者・さいとー栄氏は、ジャンプ作家陣のアシスタントとして腕を磨き、『ヘヴィーオブジェクトS』『艦隊これくしょん ‐艦これ‐いつか静かな海で』(ともにKADOKAWA)、『刀使ノ巫女』(集英社)など人気・話題作のコミカライズ版を担ってきた実力派。満を持してのオリジナル連載作なのです。
2人の旅が、人気ツーリングルート&スポットをたどることも見逃せません。ツーリング好きライダーにとって「あるある」なスポットが、続々と登場するわけで。
2人が乗るバイクは、ヤマハのセロー。1985年から2020年まで生産され続けたロングセラーモデルで、日本を代表するオフロードバイクなのです。そんなセローが第3の主人公だけに、二輪業界でも話題沸騰。二輪業界内の高読者率が、業界内外で知られていたりします。
例えば半クラッチやクラッチミート、シフトチェンジ、ときにウィリー走行など、バイク乗りなら「おっ」と思うコマが随所に見受けられたりも。あくまで「わかる人にはわかる」レベルで、押しつけがましくないところにも好感が持てます。
本格的バイク漫画とまではいいませんが、バイク好きも満足できる作品としてお勧めしたい『終末ツーリング』。物語はまだまだ序章といった雰囲気なので、今後の展開が楽しみです。